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エピローグ 〜The Ending of Xanbe Legend〜
全てが終わった。
二人の教祖を失ってSM教団は解体し、SM信仰は表向きほぼ完全に消滅した。ただ…以前に比べてSM人口がちょっち増えた、という話ではある。でももう、問題を起こすようなことはないだろう。 女王は最後の戦いの後、そのまま人の手の届かぬ千波湖の底に再び沈んだ。そして大王はテラ達の手により牛久に戻された後、駆動装置を厳重に封印され、県と市による共同プロジェクトへと引き渡された。近日中には以前のように大仏としての外装を施され、再び元の観光名所になるだことろう。 そして… 元教団本部ビルからそっくり倉庫に移してきたパンドラシステムの前に、テラとアロハ三人、そしてミミちゃんが集まっていた。 魔法陣の上には、ザンベとマチ…いや、もう元の普通人に戻った三部とマチ子の身体が横たわっていた。 『ザンベ』と『マチ』としての精神、及びコアとなるイデアは既に解体され、パンドラの扉の向こうに帰ったのだが… 普通人たる二人の魂は、自力で元の肉体に帰還すること能わず、未だ現象世界と潜象世界の狭間を漂い続けていた。 ミミの肩に手を置き、テラが静かに説明する。 「…このままでは彼らはあと数日で、本当の『死』を迎えてしまうだろう。彼らの魂は、他人の魂や強大なイデアとの癒着と再分離を経て…常人には耐えられぬ量のエネルギーに曝されてしまった。…そして、潜象世界での漂流だ。既にかなり崩壊が進み、もはや魂の形すら失って広範囲に分散してしまっているだろう。今の状態ではもう、これを回収・修復して肉体に戻してやるのは、私の技術では無理なんだ。でも…」 ミ「…私の力を使えば出来るの?」 ミミと同化した指輪…結晶オリハルコン『紅玉』は、結局分離する事はもう不可能だった。 彼女は一生力と付き合っていく事になるのだろうが、普通の生活をしている分には支障はない。 テ「今までのデータからして、おそらくね。勿論、我々全員もサポートするよ。しかしかなり高度な処理と時間を要する作業なので、君には相当な負担がかかると思うんだが、その…」 そこで、少し口篭もるテラ。 テ「それでも…君はやってくれるだろうか?…君を苦しめ、ホルスを死なせる原因となった…この二人のために」 ミ「………」 少しうつむくミミの顔を神妙な面持ちで見守るブルー、ブラック、原。 その前日に三人は、ミミと一緒にホルスのお墓を作り、弔ったのだった。 …その時のミミの涙を、三人は忘れる事が出来ずにいた。 「でも…」と、ミミが口を開いた。 「それでも、みんなはやろうとしてるんでしょ?…みんなもいっぱい傷ついて、苦しんで、それに…お姉ちゃんも…」 「ッ………!」 悲痛な想いを呼び起こされて、皆の顔に苦みが滲む。 …だが… ミミは笑った。 苦しみも、辛さも全て吹き飛んでしまいそうな笑顔で。 「…私も…みんなと同じだよ!救けたいんだ…目の前の、生きようとしてる命を!」 「…ミミちゃん…!」 戦士たちの顔が、皆一様にほころんだ。 二人を救えるという事よりむしろ… …この目の前の幼い少女が、幾多の苦しみを味わいながら、なお「救おうよ」と言える少女であることに。 『…たった一人で辛い苦しみに耐える小さな君…。その強さ、気高さを、どうか大人になっても忘れないで…』 (智美……) ミミを見ながら、ブラックは一人想いを馳せた。 ここにも…ここにも、・君がいるよ…! …そう…僕達はいつでも、君と一緒にいられる。 同じ道を歩んでいける… 僕らが立ち止まらないかぎり…!! ブラックの目に、小さな光がきらめいた。 他には誰も気付かないけれど。 …二人の魂を救う作業は困難を極めるものになる筈だ。 だがミミの小さな身体が光を放ちはじめた時、その成功を疑う者はこの場に誰一人としていなかった。 …………………………………………………………………… それから一ヵ月ほどして、水戸の小さな教会で三部とマチ子は慎ましやかな結婚式を挙げた。 その参列者の中に、両親と幸せそうに並ぶミミの笑顔があった。 …………………………………………………………………… テラは一人あの鍾乳洞に来ていた。そして光さす洞房の中央に横たわる冬眠装置の前に立ち、ツ…と手を触れた。 「智美…私は今度の戦いの中で沢山のものを学んだよ。沢山のものを得て…沢山のものを失った。…でも何故だろうな…。全てにケリがついた筈なのに、私の心は未だ解放されずにいる。…何かやり残している気がしてならないんだ。フフ…私はまだ、どこかで 天井から光をこぼす岩の裂け目を眩しそうに見上げるテラ。 「智美…私はしばらく休むよ。それ位はいいだろう?…そして、いつかまた目覚めた時、その時こそはきっと…」 かつてテラは、朝日が昇るたびにまた永遠の償いを続けることを自分に課した。命ある限り、未来が彼の「贖罪」そのものであるという時期があったのだ。 だが… …未来はもう、彼を苦しめるものではなかった。 テラの指が、静かに開閉スイッチに触れた。 終■■■■
もうひとつのエピローグ 〜The Ending of Forest-Man Legend〜
話は二ヵ月前にさかのぼる。
アロハマンが盆地で熊と遭遇した時、森の奥にトンズラこいたマグワイヤーは、一晩寝たら何故か一面金色の世界にいた。 余りに幻想的な美しさにいつのまにか天国へ来たのかと思ったが、巻き上げたら臭かったので興をそがれた。 やがてそれを吸収した植物の生態が変わり始め、盆地は独自の生態系を持つ進化の孤島へと変化した。三悪もその腐海に適応し、『森の人』として高貴な精神を持つに至った。 ところがある日、突然大地に地獄の釜の蓋が開いて全てが地中に呑み込まれた。金色屁雪崩に巻き込まれてやって来た、光の差さぬ地下世界に、彼らは再び適応していった。 生態系は暗闇に合わせて更に異常なものへと進化し、さながらダンジョンの様相を呈した。三悪は序盤の中ボスクラスだった。 ある日冒険者の影が見えたので喜び勇んで向かうと、何を思ったか 三人はコケや湧き水で命を繋ぎ、アルビノのサンショウウオを愛玩した。そして遂にある時、光差す遺跡の中に太古の冬眠装置を発見した。人生の逃げ道を見つけた彼らは「未来への脱出だ!」とばかりにこぞって鮨詰めに入り込んだ。そしていつの日か白馬の王子が目覚めさせてくれる事を夢見て眠りに就いた。 …そして…長い長い(多分3日位の)眠りの後、静かにカプセルが開かれ、遂に目覚めの刻が訪れる。 …逆光にかすむ白馬の王子の顔は、なんだかとても困っているように見えた。 完■■■■ |
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