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第87話 見た!女帝の正体 〜鳴りやまない熱き鼓動の果てに〜 1989年11月18日放映
水戸市街の数`南側国道50号バイパスからよく見える辺りでうなりを上げて激突する二体の巨神!!繰り広げられるは空前絶後のSMショー!!空は赤く染まり、地は幼子のように震え、人々は絶叫し、熱狂し、読経した!!
人の形をしたバベルの塔、『大王』はシバかれる度によがった。と…言うか吠えた!その怒号は衝撃波となって半径10qのビルのガラスをことごとく砕き、大地をも水面の波紋 「…まさに…『あえぎサンダー』…ッ!!!!!!」 その圧倒的なまでの迫力に頭の先まで呑まれる三人。…何が凄いって、こうまで名が体を表している様を彼らは他に見た事がなかった!名前だけで、既に負けそうだった。情けなさと恐ろしさを余す所なく表現したネーミング。これは…これはまるで…ッ!! 「…なんか智美の付ける名前みたいだな」 思わず口をついて出た言葉に、先ほど合流したテラが間髪入れず返答する。「よくわかったな」 唖然とする三人。 テ「そもそもSMの連中はあれを『大王』としか呼んでいなかった。 『あえぎサンダー』というのは我々が勝手に付けたコードネームだよ。智美が言うには、名は体を表すのが一番いいんだそうでね」 ちなみに、『シバきの女王』もまたしかり…である。 今や、千波湖畔には続々とSM教徒が…いや、巨大なSM力に感応して今も次々とSとMとに分かたれ続ける全ての人々が集結し始めていた。 二体の巨神が放射するフィールドはもはや有効半径が地球の直径を越えてしまっている為、全世界の人間がその力に反応し、ある者はすんなりと、またある者は魂を引き裂かれた挙げ句より素質のあった方へと変容する。そして極東に御座します二柱の神を目指して前代未聞のSM大行進 ・・そこに集った全ての者が、いまや大いなる人類の『マツリ』の中に居た。『ハレ』の中に居た。そして彼らもまた互いにシバき、シバかれ、喜びの唱を歌って忘我の刻に傾れ込んだ。 広大なフィールドにつかまった人工衛星が次々と落下し、無数の流れ星が水戸の空を流れた。もしこの時代にスペースコロニーがあったら、水戸は地上から消滅していただろう。 今や二人は世界の中心であり、同時に世界の果てだった。 そんな終末的光景の中、アロハマンとテラはその魂の強さ故まだ辛うじて正気を保っていた。しかし今もびしびしとSMの波動を受け、狂おしき誘惑に苛まれている。少しでも気を許せば、すぐにでも意識(とゆーか体)を持っていかれてしまいそうだった。 原「一体…一体どうしたらいいんですか、テラ!?」 最早悲鳴ともつかないその問いに、テラがゆっくりとかぶりを振る。 テ「…純粋なMのイデアと化したザンベを封印することは、もはや原理的に不可能だ」 「…!」絶望の色をあらわにするアロハマン。 黒「そんな…もう、終わり…だってのか!?」 テ「…しかもこのままSとMの力が極大に達してしまえば、地球はS半球とM半球に分裂してしまうかもしれない!!そして…さらには真空が相転移を起こして第6の力『SM力』が生まれ、宇宙を根底から変えてしまう可能性も…!!!!」 …もはや声も出せない三人!まさに…宇宙・・開発ッ!! 「…もっ…もうダメだァーーッ!!!!」 その時、ブルーが妙な事に気が付いた。 「なんかさ…バランス、偏ってない?」 この男、この大事な話の最中に一人ショー見物をしていたのだ! …だが…確かに大王のM力が強すぎて女王が圧倒され、ジリジリ千波湖の方へ下がっているようにも見える。 テ「!?ま…まさか!!」 ガバッとスカウターの表示に見入り、加速 テ「まだ…チャンスはあるぞ!」 三人「!!!?」 テ「ザンベと違ってマチはまだ完全ではないんだ!…そして女王には今、大王に合わせようと限界以上の負荷がかかっている!それでも対抗し切れずに、SフィールドはMフィールドによって半ば相殺されてしまっている…!今ならまだ、我々にも付け入る隙があるんだ!」 そう…女王だけでも止められれば、世界が相転移することはない。そうして時間が稼げれば、さらなる対応策を練る余裕も出るのだ! テ「頭部のコクピットにいるマチ…つまりミミちゃんと女王の接続を断ってしまえば、エネルギー源を失った女王はその活動を停止する…!」 しかしいくら半減しているとはいえ、女王はマチのそれとは比べものにならない程強大なSフィールドに守られている! もっとも可能性のある方法として彼らは、バスターカノンで直接突破する道を選んだ。原を先頭として三人を漫画版パーマンの様に直列にして撃ち出し、その慣性力(3×3=9倍)で女王のSフィールドを貫通しようという作戦だ! だがその為にはカノンの破壊力を極限にまで引き上げなければならない。そこでテラが修復強化したスーパーバスターカノン(砲身が通常の3倍もある!)に水戸中の電力を集中させ、ハイパードライブ状態の三人を直列装填した! …水戸中の灯が次々と消えてゆく…!! 「………ッ!!」 砲身の中で、ホワイトのブレスをギュッと握り締めるブラック。 …それは、乗り込む直前にテラが渡してくれたものだった。 テ「…これは君が持っていてくれ、ブラック。智美が…きっと君達を守ってくれるだろう」 黒「…テラ…?」 いつものテラらしからぬ迷信的な言葉に少し戸惑うブラック。それに…これは、智美のたった一つの形見なのだ。 「…私は………」 言いかけて、フッと視線をそらすテラ。 「…いや、一緒に…連れていってやってくれ。それを智美も望んでる」 黒「テラ…」 テ「……すまない…結局私は、君達を死地に追いやるような真似ばかりしているな…!…そして…智美も…!!なのに…」 視線をそらしたまま、テラの肩が小さく震える。 「…なのに私は、今度もまた一人だけ安全な場所に居て…!私…私はまた……!!」 その時、ブラックは今更ながらに気が付いた。 アトランティスでの戦いの後、テラは…たった一人で取り残されたのだ。先代アロハは皆死に絶え、智美も自らの魂を扉に封印して… …突然、テラのかつてのセリフがブラックの頭によみがえる。 『…それをさせたのは、彼らを「英雄」として崇めた我々だったのではなかったかと…そう考えてしまうことがあるんだ』 …テラは皆を犠牲にさせてしまった自分の罪を噛み締めながら、もはや償うことも許されぬまま、たった一人この世界にとり残された。 『…どんなに「もうダメだ」と思おうが、それでも再び陽は昇る。明日がまた来る…だから、そのたびにまた償うのだよ』 …彼は、もう忘れてしまっても良かった筈だ。 例えいつの日かグルザーが復活しようと、見知らぬ遠い未来の事など放っておいても誰も責めはすまい。アロハも智美も、「哀しいが必要な犠牲だったのだ」と割り切って、全てを忘れ新たな日々を生きてゆく…そんな選択肢だってあった筈だ。 だけど彼はそうしなかった。智美と女王を密かに隠し、眠りに付いたグルザーの一人と入れ代わり…アトランティスでの平和な日々の全てを投げ捨てて、遥かな未来で戦い続ける道を選んだのだ。 ……それでも、結局智美を救えずに… アロハ三人を再び死地に追いやり… …今度も・・・・・・またもう一度、自分一人が生き残る。 それは、一体どれ程の… 「……!!!!」ブラックは、ぎゅっ、と智美のブレスを握った。 黒「…帰りますよ…」 テ「…!?」 黒「この間、ネオと決闘する前にも言ったでしょう?…俺達は必ず、帰ってきますよ。そして…必ず形見 テ「…ブラック…」 黒「…智美はきっと…本望だったと思います」 ブラックは揺れない声で語り続けた。 黒「智美は望んで戦った。…自分の信じるもののために戦ったんだ。あなたには感謝こそすれ、きっとこれっぽっちも恨んじゃいませんよ。何故かは判らないけど…今では、そうだと思えるんです。そしてそれは…」 ブラックの目が、テラを真っすぐに見つめる。 黒「…俺達も皆、同じですよ。…あなたが居たから、ここまで戦ってこれたんだ」 テ「………!」 不意に心に入り込んできたセリフに言葉を失うテラ。続けるブラックの視線にぐっ、と力がこもる。 黒「だから…ここで見ていてくれませんか?これは…あなただけにしか、頼めない事なんだ!」 テ「…ブラック…!」 テラを見つめるブラックの目は、深く、どこまでも澄んでいた。その二つの魂の淵の向こうに、テラは何かはるかなるものを見た気がした。 …それは…いつか遠い昔に見た戦士の目だった。 『…出来るだけの事はやってから死にたいからね。お互い…』 …あの夜、ブラックにそう言ったのはどれほど前の事だったろう。 そんな小さな台詞が、今ではとても恥ずかしく思えてくる。 (…我々が崇めてしまったから…だと!?) 私はなんて思い上がった自惚れをしていたのだろう…! …彼らは何かに照らされていたのではない。 何かに仕立て上げられていたのでもない! 彼らは…自ら光り輝き、世界を照らしているのだから!! …崇める…!?そんな事などしなくても、はなから彼らは… 「世界を…全てを君らに託す!」 ブラックの両手を握り、く…と頭を下げるテラ。 …彼らはとっくに、英雄 「…頼むぞ…!常夏戦隊、アロハマン……ッ!!!!」 …既にカノンは青白い炎をあげ始め、周囲にプラズマが発生していた。予想を遥かに上回る力場が集中している…!このままでは、中にいる三人の生命も危ない! それでも、尚もカノンのチャージを続けるテラ。漏れ出すプラズマが彼の身体を焼いても、微動だにせずじっと見守り続ける。 テ「チャンスは一度きりだ…失敗は絶対に許されない!!」 カノンのパネルが弾け飛んだ!三人が苦悶の悲鳴をあげる!! 「あひいいいいいいいいいいいいいいいっ!!!!」 テ「…まだ……まだだ!!」 送電コードが溶けた!!機体が炎に包まれる!!!! テラの目に、女王の頭部が止まって見えた… テ「今だぁッ!!」 発射!!同時にカノン爆発!!背後半径50bを吹き飛ばしつつ、アロハ三兄弟が未曽有の威力で飛翔した!!!! 原青黒「…いっけええええェェェーーーーーッッッ!!!!!!!!」 巨大な運動エネルギーを背負って女王のSフィールドに激突!! 一瞬内側に押し込まれるSフィールド! だが次の瞬間、グラインダーの如き凄まじい音を上げて、元に戻ろうとするフィールドと三人の突進力が拮抗する!激しく振動する原と後ろから轟爆放屁で更に推進力を生むブルーに挟まれてブラックが叫ぶ! 「耐えてくれ原ッ!!一瞬でいい!一瞬でも孔を穿つ事さえ出来れば…ッ!!」 永遠にも思える数秒を越え、遂に…内側へと貫通した!!!! 「やったぞ!原……ッ!?」 宙を舞いながら声を失うブラック。 その腕に掴んでいた筈の原の…足の・・・つづきが無いのだ! 「あ…ああ…っ!!」 …・・それは、Sフィールドに削られて頭から膝下までミンチ化し… 千波湖中に飛び散って…… 全部、魚に喰われてしまった!!!! 青黒「はっ、原アアアアアア〜〜〜ッッ!?!!」 壮絶な仲間の死にひたる間もなく、辛くも女王の外壁に取りつく二人と膝下。しかし余りに激しい振動に振り飛ばされそうになる。今この瞬間も女王は、全力で大王をシバき続けているのだ。 早く内部へ突入しようと焦るが、ブルーのバズーカでも女王の装甲は破れない! 青「くそっ、どうすれば…!?」 (……に…) 黒「!?」 叫喚の中に微かな声を聞いた気がして、周囲を見回すブラック。 (…に…ハッチが…) 青「…どうしたブラック?」 黒「…腹部に…中に入るハッチが…!?」 青「なに!?」 黒「声が…聞こえたんだ。一か八か、行ってみよう」 フリークライミングさながらに移動し、なんとか腹部に辿り着くと… 青「すげえ…ホントにあった!!」 黒「よし、突入だ!!」 半ば生物と化した女王体内の羊腸の小径を全力で駆け上がる二人!周囲の肉壁から次々と鞭状の触手が襲いかかる! 青「うっ、うわあああ!」 …その時、ブラックがまた声を聞いた! 黒「…何ッ…『俺を使え』だって、原!!!?」一瞬の躊躇の後、遠慮なく原の膝下を触手に向かって振り回すブラック! 「おりゃああぁぁァァッ!!!!!!」 なんと効果てき面!!ブラックの気合いに呼応して原の存在意義消滅力がスパークし、触手を跡形もなく消しさった! 青「すげえ…くさっても原だ!」 さっそく乱用してどんどん先へと進むブルーとブラック!だが、使用頻度に比例して原の膝下もどんどん削れてなくなっていく!愕然とする二人!原の魂も『やめてェ!お願いだからもうやめてくれーーーっ!!!!』と号泣をする!だが… 黒「…なに!?例えそれで消滅しても本望だって言うのか、お前って奴は!!」 完全に何か別のものを聞いているブラックは、ただただ原 (のような何か)の心意気に涙して、ますます膝下…いや今となっては足首を、行く手をふさぐ肉壁開きに使用した! 「これでドドメ 遂にどどめ色のオーバードライブまで使役した!!最大励起存在意義消滅力で肉壁消滅!もう足首も残り半分! 原魂『やッ…やめるおおおぉぉォォーーーーーーッッ!!!!!!』 黒「何、『俺の事は構わず早く行け』ッ!?」 涙を呑んでポイ捨てた!! 原の魂『おーーーーい!!!!!!』と虚しく絶叫!! その後ブルーも肉壁に取り込まれながら最後の一撃、黄土色のオーバードライブ(尻をあてて屁をする事で伝達)でブラックに道を開いた! 黒「ブルーッッ!!」 青「いけーーーーっ!ブラーーーック!!!!」 黒「く……!」 目を閉じ、一気にブルーの脇を駆け抜ける! 黒「ブルー!原…!お前たちの犠牲は決して無駄にはしないぞ…!!」 一人と足首の犠牲の元に突き進み、遂に単身、中央制御室の前まで辿り着くブラック!!このドアの向こうにマチがいる…!! 「…『先代』達の時とは逆って訳か…」 …先代の原とブルーは、ブラック一人を残して、そして…! 「…!!」首を振り、その考えを追いやるブラック。 「俺は…俺は……帰るんだ!必ず勝って、そして……!!!!」 決意と闘志を胸に、扉を突き破って一気に突入するブラック!!!! 部屋一面の触手の鞭がかかげるマチの姿…!! …が、突然彼は見えない壁によって弾かれる! 黒「こっ…これはっ!?」 …Sフィールドではない…!マチは今ムチを持っていない!! 黒「…まさか…・・・・・・Hフィールド!!!?」 薄金色の光をまとい、無数のムチ型管を体中に繋いで宙に浮かぶミミ…いやマチが、ゆっくりと目を開いてやわらかな言葉を紡ぐ。 「そう…貴方達はそう呼んでいたわね。何人にも侵されざる …『H 『正』と『性』に続く三つ目の『・・せい』…!それは… 黒「…聖域… …それは余りの神々しさゆえに、物理レベルにまで高まった『近寄りがたさ』だった!! その意味する所を悟ると、おもむろにベルトを緩めだすブラック。 そう…Hフィールドに対抗できるのはHフィールドしかない! かつて…智美 「いくぜ…まずは一枚開放拳!!」 自らのHフィールドをぶつけるブラック! だがマチのそれには遥かに及ばない!! 「うおおおお!二枚開放拳!!」 「三枚!!…四枚ッ!!」 宇宙相転移の時間が迫る!だが必死の脱衣攻撃の甲斐もなく、マチの聖域には疵ひとつつかなかった。 「早くしなくちゃ、早くしなくちゃ…ッ!!」 焦るブラック、残った力の最後の一滴までも振り絞る。 「ごっ…五枚だああァァ!!!!」 五枚…それはもはや全裸であった!凄まじいフィールドがほとばしり、天にも届くほどの恥ずかしさと自己嫌悪に耐えるブラック!!だがそれでもなお、マチの聖域を穿つ事は出来なかった。 「うっ…うおおおおおおおぉぉぉぉぉーーーーーッッッ!!!!!!!!!!」 渾身の一撃、肉弾特攻!!…しかし無情にも容易く聖域に弾かれて、ボロ雑巾のように床面に投げ打たれるブラック。衝撃でブレスが外れ、変身も解けてしまう。 テ「ブラック!!急 通信機に向かって叫びながら、周囲の光景にわが目を疑うテラ。 …全ての『影』が一点に…巨神に向かって伸びているのだ!! テ「光が…集まっている!?」 遂に周囲の光までもが巨神をシバきに、そしてシバかれに集まり始めたのだ!!血相を変えて叫ぶテラ。 「いかん…もう時間がない!あと数分で宇宙は相転移してしまう!!…立つんだブラック!!…ブラーーーーッック!!!!」 急速に遠ざかるテラの声を耳にしながら、ブラックの意識と身体は周囲の肉壁に静かに取り込まれていった… ブラックはまたあの世界にいた。現実世界とも潜象世界とも違う、心象世界…とでも呼ぶべきあの場所へ来ていた。 そして今…ブラックは地の果てにたたずんでいた。 果てといっても壁や崖で終わっているわけではない。そこから先には・・・・何もないのだ。 周囲には色もなく、音もない。予想に反して闇でもない。 白でもなく、黒でもなく、ましてや透明ですらない。 何者もこの先を認識することは出来ない。・・こここそ真の最果て… 『世界の果て』なのであるとブラックは分かった。 智「…とうとう…ここまで来てしまったのね。ブラック…」 黒「…どうして…君もここに…?」 智「だって…・・私も『世界の果て』だもの」 ああ、そうか…、とブラックはその言葉をすんなり受け入れた。 ここは遂に最後まで勃つことが出来ず、何も成せず、何色にもなれなかった自分そのものの場所なのだ。 何も生まれず、何も変わることのないこの場所は… 下心「…とうとう自分と向き合ったんだね、ブラック」 黒「ああ…、君 一度認めてしまうと、心は全く乱れることがなかった。 一切の揺らぎがない、ここは完璧な世界であった。 …何もかも忘れて、ここで永遠に…… 下心「…ブラック、君はもう、後ろを振り返ってみるべきだ」 一瞬ビクッ、と肩を震わせるブラック。 下心「…恐いかい?そこにあるだろう煩いや悩みが、苦しみや哀しみが、あまたのトラウマが…!でも、見るんだブラック。君が今まで歩いて来たその場所を…」 必死の思いで振り返り、恐る恐るまぶたを開けるブラック。 その瞳に飛び込んできたのは… 青い空。緑の草原。遥かにそびえる山々の尾根。 そこには色があった。命があった。 そこは…『世界』だった。 下心「君は自分を『世界の果て』だと嘆いていたね。でもごらん。世界の果てたる二人の間には、悩ましく、狂おしく、愛おしいせめぎあいの中には、こんなにも広く、こんなにも豊かな地平が広がっているんだ」 黒「……これが…『世界』……!」 ブラックは、胸に去来する様々な想いに圧倒された。それでいて、体の中に澱のように溜まっていたものを全て掻き出されたような身軽さと、風通しの良さに浸ってもいた。 人は本来飛べるんだ…と、素直に思えた。 白「…ねえ、ブラック…理性は欲望と対等にせめぎ合ってこそ理性たりえると思わない?…せめぎ合って、高め合って、織り成した地平こそが豊かなのだとは思わない?…命も、熱い想いも、全てそこから生まれる。光は闇に照らされてこそ光。せめぎ合ってこそ光と闇。単独ではただの…白と、黒」 黒「…白も…黒も同じ…?」 気付くと、ブラックは草原のど真ん中にいた。下心 「そうか…」 ブラックは分かった。 世界の果て…二つの『果て』が同じものなのなら、世界を包む円周 だって…世界は本当は丸いのだから。人の心は、つながっているのだから……! そう…… 各々の単体が実在なのではない。 両者の間に生まれる関係こそが実在なのだ!! …白と黒、SとM、男と女、善と悪……! 全ての対となる概念 それでもなお一つになろうと高めあう、その瞬間に「世界」が生まれる。新しい次元が花開く! 苦悩も、哀歓も、狂気も、そして死も… …全てがかけがえのない世界の真実、同じものなど一つとしてない、たった一つの世界 「………………………………!!!!!!」 ブラックの瞳からとめどなくウロコがはがれ落ちる…! ……ブラックは今、世界の全てをありのままに受け入れた。 (…マチは今…苦しんでいます) 黒「えっ!?」 ここに来るまでの間に幾度となく聞いたその声に振り向くブラック。 そこには小さな少女がいた。白いワンピースのサマードレスに、大きな白い鍔広帽。顔は…その帽子に隠れていて見えない。 (…マチの魂は不完全です。SとMは互いに引き合う力の筈なのに、マチのSフィールドは外向きのまま…何も受け入れる事が出来ずにいる。幾つもの魂が融合しているためにそうなってしまっている。だから二つのフィールドは激しくぶつかり合い、軋んでいるの) 黒「…なら、一体どうすれば…」 (…行く所まで行かせるのです。マチのタガとなっている『理性』を吹き飛ばせば、両者究極体…真の対イデアとなって位相反転、互いに取り込み合って融合・対消滅するでしょう) …まさにケモノを極めた神の領域。 黒「…けど…オレは…!」 (…心配しないでも。今の貴方にはもう、出来る筈よ) 黒「でも…もう間に合わないよ!…もう、時間が……」 だがその耳に、そっと少女が何かをささやいた。 黒「!?…君は……!!」 カッ、と目を見開くブラック。世界は…まだ相転移していない! 「…こ…これは…ッ!?」 思わず手を目の前にかざすブラック。マチの身体が、眩しいほどに輝いている。だがその表情は苦悶に歪み、ぷつっ…と額の血管から血がしぶく! 「…くっ…黒兄ちゃん、早く…私が押さえてられる内に…!!」 「ミ…ミミちゃん!!!?」 ミミの意識の必死の抵抗によってマチの極大化は寸前で押えられていた。彼女もまた、幼い生命を賭けて戦い続けていたのだ!! マ「…ク…まさか・・・この娘にこんな力が…!だが、もうすぐ…」 ゆらり…と立ち上がるブラック。その…・・・両腕にブレスが…! マ「そ…それは!?」 黒「…俺にふさわしい『色』は決まった…!!」 バッと両腕をクロスさせる! 「まばゆき漆黒…『ブリリアント・ブラック』!!」 右手のブレスから黒いスーツがブラックの身体を覆い始める! 「闇に等しき白濁…『ダークネス・ホワイト』!!」 左側から白いスーツが侵蝕する! 「そして豊穣たる葛藤の狭間…『アンビヴァレント・グレイ』!!」 両半身からの・白と・黒が正中線で噛みつき合い、混ざり合い、複雑な第三ゾーンを形成する!! 「双着… ホワイトのスーツに今もなお宿った『理性』のイデアがブラックの力と弾き合い、引き合い、新たな次元を切り開いていた!そして… 黒「うおおおおお!!アロハ・サイクロンッ!!!!!!」 ホワイト最大の技を継承するブラック!! マ「愚かな!私にそのような技など……何!?」 マチの周りを高速回転するブラックの残像が多すぎる! いや…残像ではない!ブラックは七色七人の実体に分裂していたのだ!! マ「ば…ばかな!!!?サイクロンは二つに分かれるだけの技の筈…」 黒「…色ゴマを知ってるか…」 七人のブラックが一斉に語りかける。 「そう…白と黒の模様しか描いてない円盤が、回転させるといろんな色を見せるってアレだ。…つまり、白と黒は『全ての色』を生み出せる…!」 拳を一斉に前に突き出す! 「『世界』を生み出すことが出来るんだ!!」 七方向から押し寄せる五枚開放拳!!今や五枚×七人で35枚!!裸も七人揃うと凄いものがあった!! マ「…ぐあ…ァアアッ!!!!!!」 黒「悩むことを拒むな…!心引き裂かれることを恐れるな!盲目的な二極化は何も生み出さない。そんなものは…単なる思考停止だ!!」 マ「く…知ったふうな事を…」 黒「あんたの辛さは痛い程わかるよ…お互いイデアの体現者は辛ェよなァ!だがよ…」 おもむろに靴下を履く七人のブラック。 黒「・・これが『世界』だッ!!!!!!」 とたんに爆裂するHフィールド!! マ「あがあああああああああ!!!!」 黒「これぞ五枚開放拳・PLUS…!!」 『全裸に靴下』…この妙境においてブラックの容姿 黒「そう…片方だけじゃいけなかったんだ。二つのイデアがせめぎ合い、高め合って織り成す豊穣の沃野。悩ましくも素晴らしい、生命力溢るる世界…!」 あの草原の風が、自分の周りに吹くのを確かに感じるブラック。 「そして…今なら!今だからこそ俺は自分の下心 遂に…遂に!七人の股ぐらから七本の黒き御柱があれよあれよと天を仰ぎはじめた!!それに呼応してHフィールドが更に弾ける! 全ての怒りを、憎しみを、切なさを越え…それは生涯最大の努張を見せた!だがブラックはさらに叫んだ! 「まだだ…もっと!もっと巨きく!!」さらに叫んだ!! 「世界の全てを貫けるほど…全ての悲しみを撃ち砕けるほど!!」 さらに!! 「カモン!マイサーンッ!!!!」 その瞬間、潜象世界の彼方へ投擲された筈の巨大黒槍 「殖装(生・・殖装置の略)ッ!!」 七つの ポール御柱が一斉に展開し、天を目指さんと屹立しきった七つの 「いくぜ愛棒!!くらええぇぇッ!!睾丸鞭ギガンティーーック!!!!」 もはやそれは鞭ではなく太すぎる槍だった!! 天地を揺るがさんばかりの威力でマチのHフィールドをガッツンガッツン叩く七人のブラック!! マ「いっ…いやあああァァァッッ!!!!!!」 今にも割れんばかりに軋みを上げるマチのHフィールド!! 遂に一閃の穴を穿ち、七方向からギガンティックが火花を散らして聖域に入り込んだ!!!! 黒「アンタも行くトコまで行ってみようぜ!なあ同類 七つの先っちょがぴとりと触れるや溢れるブラックのイデア!即ち…「おおおおああ!!マラサキ色の波動疾走 パアア、とマチの全身に伝播し、そこにある人間としての理性を全て吹き飛ばした…!! ズギャアアアアア、と解放されるSのイデア!魂とイデアを括り付けていた結合がほどかれ、『マチ』の構造が解体されてゆく! 『ミミ』と、『マチ子』と、『最初の 肉体ごと潜象世界にダイブ出来るポテンシャルの全てが外に向かって解放され、周囲の空間の位相が開いてその場に・・・・心象世界が顕現する…!! 原初の『マチ』の人格がブラックに叫ぶ。 マ「あ…貴方にはわからないのですか!?あらゆる苦悩と災厄が渦巻くこの混沌とした世界を救うには、善悪とも平和と争いとも違う第三者的価値観…即ちSMによる完全二元統治が必要なのだと!!」 黒「わかるさ…たった今見てきたんだからな。そう…確かに 完成してしまったものは何も生み出す事が出来ない。進化する事ができない。それは永遠の停止であり、即ち…死を意味する! マ「だから貴方はとどまるのですか!?こんなにも愚かしく、こんなにも醜い…こんな不完全な人間の世界に!!!?」 黒「…ああ、そうさ…心はスキだらけだ!でも、だからつながれる…だから変われる!だから…高めあえるッ!!」 この数か月の間に出会っては過ぎ去った、運命に翻弄され続けた人々を想うブラック。 完成してしまうことを何よりも恐れたヨロイ。完成することを求めた智美とテラ。完成 …全てが願ったとおりにはならないけれど。 何が本当に正しいのかは分からないけれど…! 黒「…そう…『完全』なんかよりはるかに巨きな、『不完全を乗り越えてゆこうとする意志』!それこそが人間の心の奥底にある真に気高い力 ……!!本当に守るべきもの!!」 カッと見開いた両眼で『マチ』を貫く!! 黒「それが……『命』だッ!!!!!!」 …だからこそ、これからも不完全な世界で生き続けてゆく俺達…!! 「……それが……」 次第に解体してゆく、『マチだったもの』。 「それがあなたたちの、こたえ…か……!!」 最初の『健全な人間』の魂は離れていった。そして『マチ子』の、 『ミミ』の魂が次々に分離する。そしてその場に残ったのは… 純粋なる『Sのイデア』。 …真白き翼を持った、美しき愛の天使…! 「これが…」 目を見張るブラック。 「これが…『女帝』の…本体……!」 それは…心の内と外との境がない・・・・この世界が見せた仮の姿だったのかもしれない。もはや全てのしがらみから解き放たれたSの天使は、美しき激光を放ちながら次第に輪郭を失ってゆく。そして… 黒「!?」 空間の・・・・向こう側からもう一つの光の球が現れる。 それはザンベの…『Mのイデア』だった。二つのイデアは互いの愛しき半身の許に寄り添い、回転しながら互いを取り込んでゆく! 黒「!…なんだ…地震!?」 大きな揺れと地鳴りと共に、心象世界の大地が大きく裂け始め、やがて地平線まで届く巨大なクレバスが誕生する。 その底無しの裂目、暗黒のアビスの向こうは潜象世界の最奥部へと続いているのだ。…そして… 黒「…あ…あれは…」 どれほど深いのかも分からない、漆黒の闇の果てに、星のごとく煌めく小さな光を見つける。 「…あれは…パンドラの扉…!」 おそらくは遥か遠くにあるのだろうその点が、かつて自分がその間近で見たものであると何故だかブラックには分かった。 もはや限りなく透明に近い光の塊となったイデアは、様々にその表情を変えながら、けたたましい音を立てて暗黒の淵へと降りてゆく。 (みていよう…) ブラックはイデアの、最後の声を聞いた気がした。 (…これから貴方達が創っていく『世界』を………) 「…………イデア…が……」 互いに取り込み合い、消滅していくイデアの反応をモニターで確認するテラ。 ズズーン、と湖面に巨大な波を蹴立ててゆっくりと倒れてゆく女王。 世界が徐々に、しかし確実に元に戻ってゆく。 テ「…間に…合った……!」 テラはへた…と、尻餅をついた。 (………) 微かに聞こえた声に、ふと顔を上げるブラック。 …裂け目の向こう岸に、あの白い少女が立っていた。 「君だったんだね…」 微笑むブラック。 少女が真っすぐブラックの方を見つめ、帽子の下の顔がのぞく。 黒「…ありがとう…『智美』。…そして…ゴメン………」 「……ううん…」 ゆっくりと、小さく首を振る少女。 「…私は…本当はいつも逃げ出したかった。本当はとても弱い人間だったの。でも、テラとあの日出会えたから。ブラックと一緒に戦えたから…」黒「…智美…」 少女は小さく微笑むと、すうっと音もなく裂け目の中に降りていった。 その姿はすぐに見えなくなり、やがてしばらくの間を置いて、闇の彼方の・星がその灯を静かに消す。 …ブラックには分かっていた。あれは彼女が、再び扉の守護者になったのだと。 智美の魂は未だ過去に囚われ、解放されずにいる。転生する事も出来る筈なのに、再び自らパンドラの扉に釘打たれてしまったのだ。 ブラックはふと耳を澄ます。だがもう、智美の声は何も聞こえない。 再び轟音と共に閉じてゆく裂け目を見下ろしながらブラックは呟いた。 「……智美…俺は生きるよ、智美…そしていつか必ず、君の魂をその戒めから解き放ってみせるよ…だから…」 「…だから、今は…」 「………さよなら、智美…」 今はもう地面があるだけになった足元をブラックはなおしばらく見つめ…そして、傍らに眠るミミの方を振り返った。 「さあ…帰ろうか。俺達の世界へ…いや…」 晴れやかに空の一角…現象世界への出口を見上げるブラック。 「行こう…『俺達がこれから創る世界』へ!!」 |
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