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ALOHAMAN IN ETERNAL SUMMER
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第17話
原がこない!愛と戦慄のカノン
1988年7月23日放映


「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっ!!!!!!!!
 その日の早朝、水戸の青空に原の絶叫がこだました。ブラックとブルーが慌てて階段を駆け下りて行くと、すでに白髪化した原が、放心状態のまま固まっていた。
「こっ、これは!!
 そこには、見るも無残なバラバラのぐちょぐちょの鉄屑と化した轟天号の残骸が!二人は自分達のバイクが無事なのを確かめると、さっさと授業に行ってしまった。
 その日の夕方。腹をすかせて帰った二人がアパート前で目撃したのは、未だ固まったままの原だった。さすがに通行の邪魔なので、二人は原を担いでいって部屋の角へと転がした。
 そして、一夜があけた次の日の昼。部屋の角で放心し続けていた原が、急にすっくと立ち上がる!
「そうだ…壊れたのなら、直せばいいんだ!」
 ようやくそんな単純な事に気付いた原は、さっそく工具一式を用意し、嬉々として階段を下っていった。だが、しかし!!轟天号の残骸は、すでに大家が不燃ゴミとして出した後だった!原、ショック!!
「諸君!出動だっ!!
 その日、長官がいつものように床から飛び出したとき目にしたものは、部屋の片隅で真っ白な灰と化していた原だった。
「…おい?」原の両目は虚ろなままで、全く焦点が定まらない。
「あの…、出動なんだけど……」しかし、原は燃え尽きていた。
「………」さしもの長官も、そのまま引っ込む以外に手がなかった。

 ギャグしか取り柄を持たず、社会的に全く価値を認められない原という人間にとって、多少なりとも世間一般が『自転車』として価値を見出だし、存在意義を認める轟天号は現実世界に対する自我そのものであったのだ。つまり、轟天号を失ってしまったその瞬間、原という個体は地球人類社会におけるその存在意義を永久に喪失したのだ。以前から原は『原』でしかなかったが、今となっては原は人間としての一切の価値をも失ってしまったのだった。

「出動だっ!!」今度は教室内の教卓の下から長官が現われた。慌てて教卓を引っ繰り返して調べる教授を尻目に、ブラックとブルー、出動だ!! 前回の手痛い敗北でヤケクソになったマグワイヤーは、なんと今回再生怪人をまた再生した再再生怪人、名付けて『地球にとーっても優しいんだったら優しいんだい!怪人Z』でもって戦いを挑む。はっきり言って敗北覚悟の戦いである。それでもどさくさに紛れて少しぐらいは奪った金を持ち帰れれば、とにかく当面の食費はしのげる。…そう、彼らは生ゴミとして捨てられていた残飯を漁りながら今日まで生き延びたのだ。
「へっへっへーん!たとえ何回再生したってハラコフカノンを一発かましゃあ…」
 そこまで言って、さっと血の気が引いて行くブラック。
「おい、原は…?」
 いそいそとカノンを用意していたブルーも、はっと気が付く。
「ま、まずいっ!!
 あの再生怪人シリーズはハラコフカノンでならばすぐふっとぶが、まともに戦ったのでは歯が立たない。果たせるかな、やっぱりズタボロになるブルーとブラック。
「お、俺が飛ぶ!」何を思ったかブルーがカノンの中に潜りこむ。
「原ほど破壊力はないかもしれんが、俺の忘却力でせめて記憶喪失ぐらいにはしてやる!」
 しかしカノンの中で増幅されたブルーの忘却力は、かえってブルー自身を記憶喪失にし、自分がアロハマンである事すらも忘れさせてしまった!ブラック、ピンチ!!
 その時、ブラックは閃いた。とっさにブルーのヘルメットに原の似顔絵を描き、そのままブルーを発射した!原の似顔絵による存在意義消滅力は通常の百分の一にも満たなかったが、ブルーの忘却力との相乗効果により、辛うじて普段のカノンの十分の一程度の出力が得られ、なんとか怪人を消滅させた。やはり原の存在意義消滅力は原の発するギャグだけでなく、『原』という存在そのものに内包されているのだろう。
 辛く…苦しい戦いだった。

 同じ頃。水戸駅前の自転車置場を荒らす男が、一人…。
 原は、手近なママチャリを見付けては手に取るのだが、勿論、轟天号とは違う。別物であると気付くと半狂乱になり、そのママチャリを破壊して、さらに別のママチャリに手をかけるのだった……。


 
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