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ALOHAMAN IN ETERNAL SUMMER
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第54話
裏切りのブラック
1989年4月1日放映


 その朝、朝刊(もとい長官)が出現した時、部屋にはブラックしか居なかった。それが、この惨劇の大いなる幕開けだった……。
「ボーナス」 「は?」 一瞬意味がつかめないブラック。
「いささか時期外れだが、お前等にボーナスを出す事にした。他の二人にもその旨伝えておいてくれ」

 長官が消えてしばらくしても、ブラックは事の真相を把握できずにいた。
 …ボーナス、ボーナス…ボケナスと言えばブルーと原だな…おっといけねえ、こんなダジャレを飛ばしてたら原になっちまう。ボーナス……
「……なにいっ!?ボーナスだああっ?」
くわあっ、と両目を見開き雷に打たれて逆光になり、「がらぴしゃどかあああん」、という効果音を背負って『ボーナス』という言葉の意味を悟るブラック。
「今まで一度たりとも必要経費もガソリン代もくれないでいた長官が…事もあろうに、ボーナス、だとおっ!?
 人間、真面目に働いていればいつかはいい事があるものだ。とうとう俺達の苦労が報われる日が来たのだなあ…。思えば長く辛い貧乏だった。何回電気・水道・ガス・電話・新聞を止められ、いくたび飢餓で死線をさまよったろう…。
 だが…それも、今日までだ。ついに、リッチな生活を送れる時が来たのだ!!溢れる涙を拭おうともせず、ただ感動に打ちひしがれるままのブラック。ふと気が付くと、すでに夕日が暮れかかっていた。
 慌ててブルーと原を探しにいこうと靴を履き始めるブラック。早くこの喜びを、この感動をあの二人にも!そしてこの幸福を分かち合…

 …まてよ?
 この時、ブラックの脳裏に魔がよぎった。だがブラックを責めてはいけない。どれほど心の清らかな人であれ、あまりに貧乏暮しが長ければ、つい金に目が眩んでしまう瞬間というのはあるものだ。かくも貧乏とは苛酷なものだ。…そう、全ては貧乏が悪いのである。決してブラックが悪いのではない。だが…
「なんだ、わざわざアイツらに教えてやる必要なんてないじゃん」
 ブラックは、悪魔の笑みを浮かべてしまった。
「…よし!俺が全額もらっちまおう!!
 まるで体重というものが消え去ってしまったかのように軽やかな足取りのブラックは、有金全てを手にしたまま夕暮の水戸の町へと消え去った。

 その夜、床から出てきた長官が見たものは、何だかよく分からないけどゴージャスな雰囲気に浸り切って恍惚とした表情のブラックだった。
「おう、何かよっぽどいい事があったようだな」
「へっへっ、そりゃもう…。ところで長官、例のお約束のものは…?」
「うむ、これだ」と長官が出したものは、なんと…棒で串刺しにされたナスだった!
「…は?」
・・・・ボーナスだ」 「あんたは原かーっ!!
「そうだといったら?」 「………」
 その時ブラックは気が付いた。今日は4月1日、つまりエイプリルフールだということに………
「いっ…、いやあああああああああああああああ〜〜〜〜〜っ!!!!

 しばらくして帰ってきたブルーと原が見たものは、すっかり廃人と化したブラックだった。


 
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