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ALOHAMAN IN ETERNAL SUMMER
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第59話
嗚呼情けなや!アロハマン
1989年5月6日放映


 アロハマンは兵法を知らない。五輪書を読んだ事もなければ三十六計も聞いた事がない。その方面には全くの無知といって申し分ないにも関わらず、彼等の取った戦略はあらゆる見地から見て全く正しかった。おそらくは百戦錬磨の鍛え抜かれた勘と、動物的生存本能がそうさせたのだろう。
 彼らは……・・・・・逃げたのだ
 まだ見ぬ明日に向かって、明日をも知れぬその立場で…。

 彼らはその時のことを全く覚えていなかった。覚えているのはただ、恐怖。壊れた原を視た直後、気付けば目の前には満点の星が瞬いていた。おそらくは真夜中になるまでバイクで疾走し続け、どこか人里離れた山奥の廃村のあぜ道でイタチをよけ損ねて転倒したのだろう。辺りは虫と蛙の鳴声で飽和していた。必死の思いでエジプトを脱出し、永い流浪の末ようやく約束の地に辿り付いたイスラエルの民の気持ちが分かったような気がした。
 ここまでくれば誰も追ってこない。ここでは誰も俺達の事を知らない。ここでひっそりと暮らしてゆこう。都会(水戸だけど)の暮らしも、正義の味方だった事も忘れて…。

 まずは畑を作ろう。人参やピーマンは控えめにしよう。家は小さくていいから広い庭を持とう。無邪気に飼い犬と遊ぶ子供達をながめて暮らそう。子供は四人がいい…男二人に、女二人。もちろんそのためには、若くて可愛い奥さんとやる事やろう。台所でエプロン姿の後から抱き締める、なんてのもいいかもしれない。固くて冷たい床の感触が新鮮で思わず燃えてしまって…?

 右手を動かしかけたブラック、すんでの所ではたと思い止まり、痛む体を押して立ち上がった。これじゃいけない、こんなのは逃避だ…!
 やはり逃避のあまり全ての記憶を消去しかかっていたブルーを起こし、バイクの後部シートを見た。血(まみ)れの肉塊。これがかっては人間の姿をしていたものだとは…。
「なんとかせにゃあな…」
 今は、原の生命力に期待するしかなかった。

*            *            *

「おーいブラック!動いたぞーっ!!
「なにっ、本当か!?
 小川で魚を取っていたブラックの所に息を切らせて走ってくるブルー。2人は長年ほこりまみれになっていた廃屋をどうにか住めるようにし、納屋に長官から通販で買ったカプセルを設置して、原の修復を図っていた。
 培養液の中に浮かぶ原…その右手が、先程微かに動いたというのだ。
「やったな…もうすぐギャグを言うぜ」
「一時はどうなるかと思ったが…」
 見上げる2人の横顔に、ようやく微かな笑みが戻った。
「だが…どうする?このままじゃ生き返ったところで…」
「うむ…、なんとかしてあの技を破らなきゃな…」
 魚と蛙の干物をたんまり作り、畑には早くもカブが芽を出していた。食料調達が一段落した彼らは、新必殺技の開発に挑むことにした。ヒーローなら一度は通らねばならぬ関門だ。
「…ヒーロー!俺は今、ヒーロー…!!
 ヒーローの実感に打ち震え、しばらく進まなかった議論もようやく滑りだした。
「原の存在意義消滅力は音波を介する限り『真空の壁』には勝てん。ならば俺達の力はどうだ…?」という趣旨のもと、実験が開始される。2本の竹の間に張られたゴムの帯を使い、一方がもう一方を的に飛んでいくのだ!
 壮絶な特訓の末、ブラックのお下劣パワーはいやらしい言葉の羅列が音波を介していることで威力が高まることが判明。内面の凄まじさの何十分の一もにじみでていないが相当の威力である。しかしなんの言葉も持たないブルーの忘却力に至っては、どこをどういじっても増幅しようがなかった。求める威力はスピードの向こう側…まさに忘却の彼方、にあるのだろうか。しかしスピードをいくら増しても痛いだけであった。
「大体が音波を介しちゃまずいんだからこれじゃ意味ないよな…」
「いや、そんな事はないぞ?お下劣パワーは存在意義消滅力と違って『気まずい間』が必要ない。真空の壁を越えてから下品な事を言えば…」
「いや、それじゃあ言葉の蓄積が少なすぎる。俺は原みたく高速言語出来ないしな…」
「くそっ…なんとか音を…空気を介さずに力を圧縮する方法は…!」
「…いや、待てよ、逆手に取ってみるってのはどうかな?つまり空気そのものをパワーとする…」
「何?」
「だからさ、自ら発するそのパワーある空気をスピードで圧縮・蓄積しながら、さらにその空気自体の中に奏でた音波を流す!媒質ごと自ら生み出して運んでくって寸法だ」
!?!?なんだよ、一体何を言っている?」
「わっかんねえかなあ、屁だよ、屁!お前のその屁が必要なんだよ!!
「な、何だって!?」 ブルーの背筋を栄光が走った。
「そうか…屁だって空気( ガス )だもんな!屁万歳!!
 早速実験、しかし臭い!鼻どころか空間も曲げよといわんばかりに臭い!圧縮によって屁の成分の密度が通常の5倍に跳ね上がったのだ。しかも屁音の(キイ)が上がりまくって耳まで腐りそうである。弾着のドラッグシュートも兼ねて自らのダメージは軽減し、一石二鳥!

 万全を期して二人は互いの技をとことんまで鍛え合った。特訓は夜通し続き、夜が明けた頃には二人とも、あと一回撃ち出されたら死んでしまうというところまで来ていた。

*            *            *

 果し状に書いた空き地で待つアロハ三人。原はようやくギャグをぶつぶつ呟くまでに回復し、車椅子に乗せられていた。現在最大の争点、それは誰が飛ぶか、という事だった。三人が三人とも一辺飛べば死に至る瀕死の重傷なのだ。
 結局三人でジャンケンという事になるが、いくらやっても勝負がつかず、30回近くアイコが連続するという壮絶な戦いとなった。三人の精神は極度に張りつめ、緊張のあまり今にもキレそうな程ボロボロになっていた。続行を断念し、最終手段として結局相手に選んでもらう事にした。誰が指名されても恨みっこなしだ。

 しかしとうとうマグワイヤーは来なかった。彼らの作った極超強力怪人は、強力なあまりエネルギーを大量に消費するので飯を食いまくり、宝くじの残金を全て食いつぶし自滅してしまったのだ。


 
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