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ALOHAMAN IN ETERNAL SUMMER
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第65話
指輪の秘密
1989年6月17日放映


「先日のリサーチによってSMは普通の成人男女にも十分アピールする事が立証されました。もし子供にもアピールできると証明出来た暁には、SMを我が社の基本方針に据える事を主張します!」
 所は富士通水戸支社ビル。今や社内でも出世株となり、バリバリと働くエリート社員・三部。廊下でドジっている新米を見て、三部は数日前までの自分を重ねあわせていた。
「あの頃の俺は、まさに貧弱な男の見本だった…」
        *              *
 一ヵ月前。
 富士通の新入社員三部は、同僚のマチ子と共に牛久大仏を見物に来ていた。彼女とは大学で知り合い、三年生の時から付き合い始めてかれこれ三年になる(彼は一留していた)。厳しい態度に命令口調…学生の時とはまた違った魅力をたたえた彼女に三部はトキメキ直していた。
 この三部には秘策がある…!
 全高120mの巨大仏の中、有難い仏舎利を納めたこの展望室…。
 満を持して指輪を贈るには絶好の場所!彼は一世一代のムーディーさを醸し出し(これで一生のムーディーさを使い果した)マチ子の瞳を見つめ、ささやくように指輪を渡した。
「まあ…」幸せに頬を染めて指輪をはめるマチ子。透かすと青と緑がまだらに混じった不気味な宝石だった。しかも台座はプラスチックだ。
「何よコレ…」一気に醒めるマチ子。聞けば祭りの夜店でドアノブと一緒に売ってた金300円也の代物だというではないか。マチ子激昂!
「アンタ何考えてんのよっ!」
 三部は訳が分からなかった。いい色だと思ったのだ。だが、反射的に謝った。「ごっ…ゴメンよ、マチ子ちゃーん!」
 振り上げた手を止めるマチ子。気を取り直して飲み物を買いにいかせたが、彼は直前でコケて服にかけてしまった。
「アンタ何やってんのよっ!!」「ごっ…ゴメンよ、マチ子ちゃーん!」 限界ギリギリの一撃を繰りだそうとしたその時…
(体が…わたしの肉体が熱い!)
 マチ子は何かが自分の中に入り込むのを感じた!一瞬完全に支配され物凄いシバきを入れそうになるが、辛うじて理性で持ちこたえる。
(わ…私は一体、何を…?)
 あまりの気迫に一度は死すら覚悟した三部。ほっとしながらもなぜだか胸は激しく高鳴る。
(俺、今…一瞬ものすごく期待してなかったか!?
 妙に気まずくなってしまい、とりあえず大仏を出る二人。だがマチ子の笑い方が「うふふ」から「おほほ」に変わっている事に三部はこの時はまだ気付いていなかった。

 その後のマチ子は着実に変貌を遂げていった。笑い声はさらに高らかに「おーっほっほっほ」と進化し、化粧も濃くなり、取引先の中年オヤジやなぜか近所の美少年にも人気が出てきた。そしてシバきに至っては目下分刻みの勢いで鋭意激化中なのだ!
 戸惑う三部。しかしその実妙にしっくりきてしまってもいた。今までにない悦びに秘かに心踊らせている自分が怖くもあり、しかし頼もしくもあった。
「俺が…変わる!」
 だが体が果たして耐えられるだろうか?将来に対するぼんやりとした不安を覚え、会社のパソコンでシミュレートしてみると、このままシバきがエスカレートすれば明後日の午後2時38分に肉体の限界を超えてしまう事がわかった。インターネットで必死に打開策を調べる内、いつしかパソコンの前で眠りこけてしまう三部。
 その夢の中で、彼は声を聞いていた。
〔お前…強くなりたいか…?〕 (え…?)
〔どんなSにも耐える強靭な肉体を欲しくはないか…?〕
(ほ…欲しい!俺は欲しいッス!)
 ぶわわわわ、と光に包まれる三部。「う、うわあああっ!?

 翌朝みんなが出社すると、やけにイキイキと働く三部がそこに居た。センスの悪い青緑色の指輪が妙に目立つ。なんでかついムラムラと苛めたくなってしまうのだが、苛めれば苛めるほど余計にイキイキしてくるのだから始末が悪い。
 そんな三部にやおらマチ子の宇宙的にビッグなシバき(素人目にも危険なシバき)がクリーンヒットした!
「なァにイキイキしてんだこの会社の下僕!哀れな卑しい犬っころめ!」
 だが三部はそれすら見事耐え切ってみせたばかりか、あまつさえ続きをねだった!
「あ、ああっ…いいっ、いいよおっ、マチ子ちゃあぁぁぁん!」
「マチ子ちゃんではないっ!女王様とお呼びっ!!
「じょ…女王さまあああああああっっっ!!
 その瞬間、全てが指輪の発する光に包まれた。
 光がおさまった時、そこに居たのはもはや三部とマチ子ではなかった。
「我が名はザンベ…魔王ザンベ!!
「おーっほっほ!女帝マチとお呼び!!
 こうして三部は生まれ変わった。もはや何者にも彼の渇きを止められなかった。
「もっと…もっと大勢の前でしばかれたい!」


 
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