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ALOHAMAN IN ETERNAL SUMMER
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第72話
改造魔人 グルザー軍団現わる
1989年8月5日放映


 アロハマン解雇からはや一ヵ月、今やSMは国中を巻き込んだ大ブームへと発展し、完全に市民権を得るまでになっていた。SMファッションの若者が街を練り歩き、関連グッズは飛ぶように売れ、『SMマガジン』が創刊され、ハヤカワSM文庫なるものが登場し、NHK教育では『SMしま専科』が放送され始めた。ブームの火付け役である富士通はマルチメディアパソコン『SM‐TOWNS』を発売し、宗教法人も取得してSM教団を設立、ムーブメントの中心を担っていた。
 そしてザンベとマチの全国ツアーSMコンサートは毎回満員御礼の大盛況を博していた。二人は今や国民的スターであり、SM教団の強力な公告塔だった。報道によればこの一ヵ月で優に150万もの人々がSMに宗旨替えしたという。
「なんだよ…これじゃまるで俺たちレジスタンスじゃん」
 那珂川の土手にテントを張って肩身の狭い思いをするアロハマン。
「…俺達も宗旨替えしちまうか?」目が冗談だといっていない。
「どちらにしても、今ならまだ苦々しく思っている人も世間的には多いけど…ブームが一定規模を越えたら、本当にそうなってしまうかもね」
 誰もそれを望まなくなってからでは、どうやって正義を振りかざせというのか。やるなら今しかない。
 それにしても、こんな事をしてザンベとマチは何を企んでいるのだろうか…。そもそも彼らは一体何者なのだ?

 その夜、水戸芸術館で開かれた『大SMコンサートin総本山』にアロハ三人が紛れ込んでいた。木を隠すなら森の中。SM信者を装って、ステージ上のザンベとマチに近付こうという作戦だ。
 三人にはバレない自信があった。SMのフリならお手のもの、何せ元々その気があるわけだからついつい熱中して閉演五分前になってしまった位だ。急いでステージに昇るとそこにいたのはザンベとマチではなく、その親衛隊SMアイドルグループ『SM★UP(スマップ)』だった。ザンベとマチはもう帰ってしまっていたのだ。
 だがどのみち彼らを倒す事が出来なければ、ザンベらを倒すのも所詮は無理な事…。彼らは腕試しもかねて、満場の罵声の中、SM★UPに戦いを挑んだ!
 ところが相手は5人がかり、おまけにローラーブレードの機動性であっという間に三人を取り囲み、ぐるぐる回りつつマイクのコードをムチにしていいようにアロハマンを嬲った。
 智美は客にまじって3人の応援をしていたが熱狂した観衆に押されてソデに落ち人知れず気絶した。片やリハビリの甲斐なくいいように嬲られているかに見えた三人は、しかし踏まれて尚ニヤリと笑っていた!
 一気に形勢を逆転しSM★UPを打倒!観客からは罵声の嵐!だが3人は平然と腰蓑をまとい、松明を振り回し太鼓のリズムに乗って
「俺の名を言ってみろー!」などと座を盛り上げた!
 宴もたけなわのその時、観客席の向こうからガシャン、ガシャンと今時珍しく鎧に身を固めた戦国武将のような男が歩いてきた。
「テメーも死んじゃうか〜!?」すっかり調子に乗ってとびかかった三人は、しかしあっけなくやられて踏み付けられた!
「こうも脆弱な輩が『アロハマン』を名乗るとは…。拙者と闘う資格もない」尚もごり、と踏み付ける男。
「拙者の名を言ってみろ!」
 この男…見た所SMとは関係なさそうだが、一体何者なのか?そもそも名前など知らないのだから答えようがない。ところが…
「ヨロイ武士…」 !?
 突然の返答に驚いて振り向く男。そしてステージの袖から、もう一人の…そう、もう一人の・・・・・・・白いアロハマンが現れた!
三人「………!!
 そのアロハマンは明らかに女性だった。だがネオではないらしく、メットのデザインはむしろ本家のそれに近い。
「お久しぶり…貴方も生き残っていたのね」 「ホワイトか…!」
「…この三人を倒そうというなら、私も相手をします」
 3人に助太刀しようとする彼女。だがブラックは(踏まれながら)それを制すと、キッと上を睨み付けてのたまった。
「もっと…もっとだ!!」 「な!?
 アロハ3人に強さの片鱗を認めるヨロイ。
「もっと強くなってみせろ。その時こそは…」
 そう言ってヨロイは去った。混乱した観客を残して芸術館の外に出る一同。そこで可憐なるアロハホワイトに握手を求めるブラック。
「はじめまして…いや、二度目かな?盆地で救けてくれたのは貴女でしょう♥」とさわやかに笑いかける。彼らはこの戦いで自信を取り戻したのだ!だが…
「何の事ですか?そもそも私が今回救けに入ったのは、『アロハマン』の世間体を悪くしたくなかったからです」とその無謀さ、計画性のなさ、常軌を逸した行動、正義の味方にあるまじき醜態、その限りなきM性などを冷静に分析され、述べたてられ、糾弾され、叱られ、鼻っ柱を折られて果てしなく落ち込む三人。
 こみあげる後悔。腰蓑が急に恥ずかしく思えた。
        *              *
 ある日ネオは、おかかえ運転手になりすましてマシーンからいくつかの内部情報を引き出し、その後採石場の崖に車を突っ込ませるという豪快な行動に出た。もちろんネオは脱出し、その際にマシーンの持っていた紅の指輪を奪う事も忘れていなかった。このように大胆かつ繊細な作戦は、本家アロハマンには真似の出来ないものだ。ミッション終了を確信し、帰ろうとするネオ。だがその時、四方から笑い声が響き渡った…
「しまった…囲まれたのか!?
 見ると、彼らは数人の見るからに強力そうな怪人達に完全に包囲されていた。
 ドガン、と巨岩を頭突きで粉砕!
「鋼鉄将軍である!」
 上空から迫りくる黒い影!
「ワシが荒ワシ侍従長じゃ!」
 ぼごっ、とネオの背後の地面から大ガマを降り回しつつ、出現!
「ケケケ…ドクロ大臣DEATH!」
 大勢の社員を引き連れ、巨大な金のソロバンをバチバチ鳴らす。
「狼社長でっせ、げへげへげへ!」
 どがっ、どがどが!と周囲に爆弾を爆発させる!
「技師長クランク!」
 ばさっ、とマントを振って毒花を散らす!
「おーっほっほっほっほ、ドクター・ローズよ!」
 がしゃん、がしゃんと丘に立ち、上から見下ろす!
「…そして、私がマシーン大皇帝だ…!!
「バ…バカな!!お前はさっき俺達が…」
「フン、馬鹿め…私がお前等の考えを読めないとでも思ったのか?脱出などわけない事だ」 「……ッ!」
 ちゃきん、という刀の音に振り向くと、崖の上に座す甲冑の男が。
「フ…おそかったな、ヨロイ」
「ちと野暮用があり申した…」
 余裕のマシーン、笑みさえ浮かべてネオを見下ろす。
「フッフッフ…我ら復活のグルザー軍団、いずれも一人で貴様等三人と渡り合える猛者ぞろいぞ!さあネオアロハマンの諸君…どうするね?」
「く…っ!!」とてもかなわないと判断したネオは間髪入れず脱出を図るが、既に辺りはグルザー軍団と大勢の戦闘員によって完全に退路を断たれてしまっていた。

 水戸に戻ってきてからのアロハマン一行は那珂川のほとりを転々と泊まり歩いていた。今日もキャンプ近くの川辺で、膝を抱えてしこたま落ち込んでいるブラック。この間のホワイトの言葉が、どうしても頭から離れなかった。
「ああ、そうか…」川面に映る自分の姿を見て彼はつぶやく。
「そうだ…俺は黒かったんだ」いつのまにか、雨が降りだしていた。

 降りしきる雨の中を、今しがた起きた爆発の煙が濛々と漂っていた。
「殺ったのは二人だけ…か」
「クソッ…どっちも指輪を持ってないじゃないのさ!」
「どうやら一体を逃がすために犠牲になったようですな」
「フン…まあいい。どうせ奴一人ではたいした事は出来まい」
 雨はますます激しくなっていた。


 
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