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ALOHAMAN IN ETERNAL SUMMER
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第73話
ツキはどっちに出ている?
1989年8月12日放映


「ここは…?」
 ブラックはいつのまにか夕日の差し込む電車に乗っていた。なぜ自分がこの電車に乗っていいて、どこへ行こうとしているのか、何も思い出せない。乗客も自分の他に誰もいない。
 …いや…一人、向かいに座っている。白い人間。知っている人。
 ホワイト…なのか?
 俺を見下ろしているのか?冷たい…つらい…これが…人の視線なのかな…知らなかったな…
「恥ずかしいって何?」
「これまではよく分からなかった…。でも、いまは分かる気がする」
「嬉しいって何?」
「これまではよく分からなかった…。でも、いまは分かる気がする」
「なぜ大勢の前であんな事をしたの?」
「なぜって…やりたかったから」
「なぜやりたかったの?」
「…気持ち良かったんだ」
「あんな恥ずかしいことが?」
「あの時は気持ち良かったんだよ!あるだろう?そういう事!」
「気持ち良ければ何でもするの?」
「いいじゃないか、別に!気持ちいい事して一体何が悪いんだよ!」
 頭を抱えるブラック。
 …何故こんなにも恐いのだ?何故こんなにも傷つくのだ!?
 …夕やけが車内を赤く染める。ホワイトの体も赤く染まる。
 なのに…自分の色は変わらない。影のように黒いまま。何があっても黒いまま。ホワイトは綺麗に赤く染まっている。
 白は全ての色に染まる事が出来る。
 全ての色。全ての光…智美……!
 白い智美。切ない色。それは決して手に入らない光。
 自分の居られない場所…
「…う…うわあああああああ!!
「今頃自分の黒さに気付いたの?あなたはずっと昔から黒かったのよ。今も、そしてこれからも…」
「あああああああ!!あああ!ああ!!
「そう…黒よ、黒、黒、黒、黒、あなたは黒…」

「…やめろおおおおおおおおおおっっ!!!!
 がばっ、と跳ね起きるブラック。…テントの中。ブラックの悲鳴で目を覚ました皆が心配げに見る。「どうしたんんだよ、ブラック…」
「…夢…!?」信じられないように辺りを見回すブラック。
 真夏だというのに、体の震えが止まらなかった。

 ブラックはその日一日中、洞窟での事を思い出してはぶり返す自己不安に怯えていた。そう…あれはついこの間の事だったのだ。
 様子に気付いた智美が励ましても、心の不安は拭えなかった。励まされればされる程、余計に自分の黒さが身に染みた。
 その夜、原とブルーに気分転換もかねて銭湯に連れていかれた。そこでブラックは延々と体を洗い続けた。

 その晩、ブラックは川に入って身体を洗った。
 月明かりが彼の身体をそっと照らしだした。
「おちないよ…」泣きながら、自分の身体を洗うブラック。
「こすっても、こすっても、特にこの辺の黒いのが……」
 力を込めて、血が滲んでもなおこすり続けた。
「黒が全然、落ちないよ…!」
 …何故俺はこうも黒いのだ?何故俺の・・ここはこんなにも黒いのだ!?
 …大体黒って何だ!?
 黒だから悪か?
 黒だから哀しみか?
 黒だから不吉なのか?
 黒だから汚いとでもいうのか!?
 黒って一体何だ!?
 俺のこの黒は本当はなんなんだ…!?!?
「ああ…ッ…!!
 うずくまり、一人ブラックは絶叫した。
「もうッ…黒いのやなんだよォォオ!!!!
 ブラックは、頭の中が真っ白になるのを感じた。この白さに身を委ねる瞬間だけが、彼にかりそめの安らぎをもたらすのだった。
 ブラックの黒い所からは、大量の白い液が放出されていた。

 次の日の朝、めずらしく早起きして川原を散歩していたブルーが、体中ボロボロになって倒れているネオ一号を発見した。連れ返った彼を三人は急いで介抱した。智美は極度の低血圧でまだ起きてこない。
 意識が戻ったネオ一号に事の経緯を聞いて、三人は恐怖のどん底に叩き落とされた。
「なんだよグルザーって…この上まだそんな敵が居るのかよ!?
「ネオが二人も…そんなの…俺達に勝てるわけないよ…」
 重苦しい空気がのしかかる。それを振り払うかのように原が凛として言った。「・・・・・かつてない敵だけに、・・・・勝てない!」
 蔑みの表情を浮かべる他二人。どうしてこの男はこんな情況でそーゆ ー事が言えるのか。だが彼は尚も続けて言い放った。
・・・・勝手な言い分でスイマセン」
 …思えばこの男、テンションが低い時程むしろ舌の滑りが良くなるという傾向がある。大脳新皮質の活動レベルが低下する事により意識的な選択性が失われ、自然発生したギャグが選りすぐられる事無く提出され、その毒性は環境安全基準レベルをはるかに越えて聞くものの気持ちを荒ませるのだ。今や彼は完全に忌むべき存在であり、二人は目をそらしながら憎々しげに舌打ちするのだった。
 だがその険悪な空気を不意に澄みわたった声が打ち破る。
「なあ、今のってどういう意味?」
 原の表情が強ばった。
(まただ…!俺の存在を根底から揺るがす、この言葉!今まで誰がしたのとも違う、異質な反応…!今まで俺のギャグを聞いた者は、全て何らかの反応を示してきた。無表情になったり、聞かなかったフリをして話を続ける事さえ、言ってみれば無反応という反応…ギャグをギャグとして受けとめたからこその挙動だった。だがネオは違う。無反応と言える物すら全くない。ギャグをギャグとして認識していない。有でも無でもなく、いわば空…そう、空反応だ!それを目の当たりにして俺は、自分の存在を確かめる事が出来ずに魂の荒野をさすらうのだ!…俺はネオが恐い。の感じられない奴らが恐いっ…!!(この間0.1秒))
 などと原が瞬時に悶えていた矢先、今時珍しいバンカラ風の男が土手をフラリとやってきて四人に道を尋ねた。
「おどれら、すまんがちーと聞きたいんじゃがのう、富士通ビルっちゅーのを知らんか?」
(ば、番長だ…本物の番長だッ!)三人は心の中で口々に叫んだ。
 下駄履き、学ラン、先割れ学生帽、肩からさげたずたぶくろ…となればこれは番長以外の何者でもない。しかし番長がなぜ富士通に…?
「いや〜、ワシャぁ方向感覚は抜群なんじゃが、しかし地図がないとからきしダメなんじゃい」
 なるほど、頭の両脇からデカデカと生えた磁石はさも方向感覚良さげに見える。頭の…
「こッ、こいつ怪人じゃん!!」「なッ、なんじゃおんどりゃァァ!!
 よくよく話を突き合わせてみると、どうもお互いがグルザー&アロハマンらしいと分かって戦闘に突入した!
 磁石番長は、その卓越した方向感覚を活かして4人を翻弄する!おまけにその磁力でもってポケットからなけなしの小銭、それも銀貨ばかりを根こそぎ巻き上げてしまう!!「超電磁カツアゲじゃァァ!!
 経済的ダメージまで食らってアロハマン側は打つ手なし。流石にグルザーの一員だけあって神器も決定力にはならず、かといってバスターカノンも弾のネオ一号が負傷していて使えないときている。何時の間にかホワイトも援護にきてくれたものの、依然として苦戦を強いられていた。
「くそっ!オレ達のカノンがあれば…!!
「…多分、我々のカノンでもレッドの発射は可能だと思う」
 成程!と早速一号にカノンを呼んでもらう。しかし敵はNとSに分身するという番長っぽくない技を出してきた!これではカノンで上手く狙う事が出来ない。
「仕方ありませんね…」
 そうつぶやくとホワイトは『運勢改変装置』なる代物を取り出した。
「これは半径50bの空間内の運の周期(バイオリズム)を一定内の倍率で伸縮できる両刃の機械です。このまま100倍で圧縮エフェクトをかければ、約10分後にあなた達の、その5分後には敵の運が最低になります。この間を乗り切れば…!」
 早速使用。するとアロハ三人の運はぐんぐん悪くなり、目の前を横切った黒猫を避け損なってクラッシュしたりした。
 アロハ側の運が最低点に達した時、精神不安定なブラックがエフェクターの効果を待ちきれずに勝ちを焦り、番長NとSの後ろに回り込んで両者を必死に取り押さえた!
「俺ごと撃てえぇ!」二人は仕方なくスマッシャーを発射!
「あっ、ダメ!相手の運が下がり切らず自分が下がり切った時にそんな事をすれば…!」
 ハッとして左右を見るブラック。FBIが宇宙人を捕まえている有名な写真が頭に浮かんだ。捕まっているのは彼の方だったのだ!身動きが取れず、しかも命中直前で手を放されて見事ブラックだけに直撃!
「ぎゃああああああああああああああ!!!!!!
「ブ、ブラックーーーっっ!!
 その直後、ようやく番長の運が最低点に達し、下駄の鼻緒が切れて動きが止まった所を再びアロハスマッシャーで粉砕!廃人が一体完成した。
 なんとか奇跡的に危機は乗り切ったわけだが、同時にブラックも廃人半歩手前状態になってしまったのがなんとも痛い。しかしこの新技がグルザーを倒せる事もまた証明された訳だ。
「今の技、なかなか良いですね。今までにない威力を感じます」
「いやあ、それほどでも…」ようやくホワイトに認められて照れる二人。
「…ナイスウルトラ砲でどうですか」 「はあ…何が?」
「名前ですよ。すごくいいからナイス・ウルトラ。あ、倒置法です」
原青「……」名前が三つに増えてしまった。さすがは三位一体。
「けどまあ、ブラックもよくあの程度で済んだとはいえるよな、あの技くらって」 「てゆーか、俺もこないだくらってるんですけど…」
 それが元で大量の屁を洩らした事は記憶に新しい。
「しかしブラックは以前にも一度ハイパーハラコフカノンを受けているのでしょう?…もうかなり限界なんじゃないですか?元々素行も良くないようだし…いっそメンバーから外してしまいましょうよ。代わりにネオ1号を入れるという事で」 「しょ、しょんな…!」
 焦点の合わない目で哀れみを訴えるブラック。
「ホワイトも入れたら4人だろ?戦隊は普通3人か5人じゃないか!だから俺も入れてよ!見捨てないでよ!!
「…ジャッカー電撃隊は4人だよ?」ポツリとブルーが言った。言ってしまってから慌てて口をふさぐ。…今日の朝メシの内容も忘れてるくせに、こんな事は覚えているのだ、この男は!
「きっ、きちゃまああああああ!!」 「止めなさい、ブラック!」
 と、当然くらり、とめまいを覚えるホワイト。
「いけない、目覚める…!」
「えっ!?」と言うが早いか素早くどこかへ去っていくホワイト。入れ替わりに智美がテントからもそもそと眠そうに起きてくる。
「ふわ…おはよございまふ…。あれ、どうしたんですか皆さん、変身なんかして?」
 互いの顔を見る三人。
彼女(ホワイト)って、他人に姿を見られちゃまずいのかな…?」
 一段落ついた所で無性に腹が減っている事に気付く三人。いやあ有意義な午前中を過ごしたネと談笑しつつもうほとんど昼飯になってしまった朝飯を作り始める。色々と不安は残るが、しかし何だかんだ言っても結果的にグルザーの一人を倒してしまったアロハ三人には、早くも「なんとかなるさ」ムードが漂い始めていた。自然と鼻歌も流れ始める。
 そんな風潮を必死でたしなめようとするネオ一号。
「いや、奴らはもっと強いんだ!…いや、強い筈なんだけど…」
 一抹の不安をよそに、カレーを囲んでさあいただきまーすというその時、指輪を追ってきたグルザー軍団の鳥魔神・荒ワシ侍従長が突如襲来した!止むをえず戦闘に傾れ込むアロハ3人とネオ一号。
 敵は空中戦を仕掛けてくるため、飛べないこちらは圧倒的に不利だ。そこで相手の空の利をなくそうと近くの林に入るが、枝から枝へと自在に飛び移られて逆にこっちが相手の位置を掴めなくなり、かえって不利な状況に陥ってしまった。声はすれども姿は見えずとはこの事だ。
 パニックに陥り逃げ惑う三人。
「やっぱり俺達のかなう相手じゃなかったんだ!」
 敵追撃と三人のお守り、二足の草鞋ははけないネオ一号。
 そして過度の緊張と恐怖に負けて、ブルーが過換気症に陥った。激しい呼吸が止まらなくなり、一時的に酸素過多になったのだ。
「ブルー、ブルー!」
 医学の知識のない二人にはどうしていいか分からなかった。
 しかも智美が足を踏み外して川に落ち流されてしまった!
「とっ、智美〜ッ!?
 さらに風を操る荒ワシに竜巻落としを喰らわされてしまったブルーは、背中に折れた木の破片が刺さって瀕死の重傷を負ってしまった!
「ブッ、ブルーッ!!」どうするアロハマン、絶体絶命の大ピンチ!


 
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