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ALOHAMAN IN ETERNAL SUMMER
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第75話
智美の父が生きていた!
改造人間T・E・R・Aとは?

1989年8月26日放映


「待ってー、ホルスー!」
 愛犬を連れ川原を散歩するのはその少女、ミミの日課だった。ホルスは親戚からもらった子犬で、とてもよくなついている。ようやく近くまで追い付くと、ホルスが何やら川原に打ち上げられたモノを探っていた。
 …人だ。人が倒れている。近寄ってみると一人は肌が雪のように白い女の人。もう一人はどことは言えないが何か黒い男の人だった。上流から流されてきたのか二人はひどく衰弱していて、しかも誰かに追われているという。ミミは二人を家の納屋に隠し、薬や食物を調達してあげた。
 だが、男の方はなかなか元気にならなかった。

「黒いんだ…俺は…黒いんだ!」
「やめてくれ…くるな!来ないでくれ、ホワイト!…助けてくれーっ!」
「…大丈夫、大丈夫よ。ここにはそんな人いないから…」
 ここに来てからブラックは毎晩うなされ続けていた。
 そのたびに智美は優しくブラックの手を取り、さすってあげた。だがブラックの心は戻ってはこない。彼の心の傷は深く…そして、明らかにそれが身体の回復さえも妨げていた。起きている時も、ブラックの眼の焦点は定まらない。
「こんなに…こんなにもホワイトという人がブラックを苦しめている…!」うなされるたび、ブラックの脂汗を拭ってやる智美。
 敵はグルザーだけではないのかもしれない。
 ホワイト…会った事はないけれど、あなたは一体何を考えているの?
「私には…何もできないのかしら…」
 そんな昼と夜とが幾度かつづいた。

「ミミちゃんに助けられて、もう三日たつわね」
 半ば独り言のように言った台詞だが、やはりブラックは何の反応も示さない。一体何があったのだろう。川に落ちたのは自分一人の筈なのに、気付くと二人で打ち上げられていて、その時既に彼はこうなっていた。
 何だろう。何かが腑に落ちない。思い返そうとするとかすかに頭が痛む。自分は一体、どれだけの事を忘れているのだろうか…
 突然、思考を破って外から悲鳴が聞こえてきた。戸の隙間から覗くと、庭でミミの両親がホルスをムチで打っているではないか!それを必死で止めようとするミミの腕や背中にもムチの痕がうかんでいた。…ミミの両親はSM教徒だったのだ!
 ホルスをかばって打たれるミミの姿に、智美は思わず納屋を飛び出していた。単にかわいそうだと思ったからではない。これは何か自分に深い関わりがある事だと感じたのだ。そう…これと同じ様な事が、以前にもどこかで…!
 だが衰弱した身体にムチを受けて、あえなく失神する智美。
「智美…!!」駆られて飛び出すブラック。智美の危機を目の当たりにして、彼の心は再び表に戻ってきたのだ。しかし二人の人相を見た両親はすぐさまこれを教団に通報した。彼等は教団に手配されていたのだ!
 ここに留まる事の危険を悟ったブラックは、気絶した智美を背負ってよたよたと逃げ始めた。
(確かに俺は役に立たない…足手まといなのかもしれない。だけど…だからこそ、智美だけは守りたいんだ…!)
 だが、早くも迫り来る追っ手の気配…もう、どこにも逃げ場はない。
 心を決めたブラックは、智美を薮の中に隠した。そのまま行きかけてふと思い直し、ポケットから紅の指輪を取り出して智美の指にはめ、額にそっとキスをして別れを告げると、自ら囮となる為に追っ手の前に躍り出た。
「チェンジ・アロハ!!

 稼げるだけ時間を稼いでから捕らえられたブラックは、近くの採石場に連れていかれた。そこには例のグルザー軍団が勢揃いしていた。この間の荒ワシや、ヨロイ武士の姿も見える。他のメンバーも同等の猛者と一目で分かった。
(…こいつらが、ネオですらかなわなかったグルザー軍団…!)
 戦慄するブラックの前に、ロボットのような奴ががしゃん、がしゃんと近寄ってきた。ヨロイ武士をもある意味凌駕するその威圧感に、ブラックの全身から冷汗が吹き出す。
「…貴様がこの代のアロハブラックか」
・・・この代…?)訝しがるブラック。
「ホウ…己の出自を知らんのか、拍子抜けだな。・・先代の貴様に散々世話になった礼を、たっぷりしてやろうと思っていたのだが…」
「かまわないでゲス、やっちまいやしょう!」
 うおおおお、とどよめくグルザー。びびりまくるブラック。心が戻ったとはいえ、極度に精神不安定な情況には変わりがないのだ。
(だがマグレとはいえ、俺達は二度もグルザー団員を倒してるんだ!)
 自分に言い聞かせるブラック。さっきは追っ手の目を智美からそらさなければならなかったから大人しく連行されたが、今ならば…
「ブレスを取り上げなかった事を後悔させてやる!」渾身の力でロープをひきちぎるとやおら社会の窓を開け放ち、スラリと抜き身の尿意棒(にょいぼう)を採り出した!「オオオォ!!」間髪入れずにマシーンに睾丸鞭を浴びせるブラック!正攻法ではかなうまい。だがリーダーと思わしきこの男に先制の一撃を入れ、体勢が崩れた隙に一気に遁走すれば…自分一人に全グルザーの目を引き付けて、智美の逃げる時間をさらに稼げる筈!
「ふっとべ、オラァ!!
 だが吹っ飛んだのはブラックの方だった!! 「ぐわっ!?
 たった一撃で戦闘力を根こそぎ奪われてしまい、マシーンに不様に踏み付けられながら、何が起こったのかすら理解できずにいた。
「つまらん…せっかくブレスを取り上げないでやったのに、退屈しのぎにすらならないではないか」マシーンはブラックを蹴飛ばし、他の軍団員の方へ転がした。 「好きにしろ」
 歓声を上げ、ブラックに群がる軍団員。
 好き放題に嬲られながら、ブラックは自分の非力さに涙が出た。
 だが、これでよかったのだ。これで巻き込まれただけの智美は追われずにすむ。少なくとも智美だけは守れたのだ。智美だけは…
 その時、マシーン大皇帝が戦闘員に指示を下した。
「智美に指輪と主幹装置を持ってくるように伝えろ」
「なッ…!!!?
 驚愕を隠せぬブラック。「なぜお前等が智美の名を…!?
「バカめ、貴様などどうでもいいんですじゃよ!ワシらの狙いはハナから指輪…そして、智美の持つ主幹装置なのですじゃ!」
「ふたつ揃ってかえって好都合でゲスな、ヒッヒッヒ…」
「フフフ…パンドラの扉をこの手でこじ開けるのももうじきですわね」
「?…!?」まるで訳の分からないブラック。何故グルザーが智美を?…いや、そもそも智美は何者なのだ!?そして、あの指輪…
「…自分を犠牲に智美を守ったつもりでいたか?」
「お前が人質になった分、かえって智美を追い詰めたのさ」
「とんだナイトでゲスな、ヒッヒッ」 「全く愚かですじゃ」
「……」
 ブラックを囲んで笑うグルザー軍団。目の前が暗くなるブラック。
(そんな…守れなかったってのか?…俺は智美の身代わりになることすらできなかったのか…!?
 それは今のブラックにとって致命的な認識だった。彼は己の余りの黒さに一度は崩壊しかけた自我を、智美を守り続ける事で辛うじて保ってきたのだ。最後の拠り所すら失った彼の心は今、本当に壊れた。
「オレハ…」いいようになぶりものにされるブラック。蹴飛ばされ、転がされ、「おい黒いの」「聞いてるか、黒いの」と痛め付けられる。
「ソウダ…俺ハ…黒インダ…」無表情なまま涙をたれ流し、なすがままになるブラック…
        *           *
 智美はようやく薮の中で意識を取り戻した。
 鞭に打たれたせいなのか、それともホルスをかばうミミの姿を見たせいなのか…微かな記憶の断片が、彼女の脳裏に蘇りつつあった。
 自分は過去−何時かは分からないが−でザンベやグルザー軍団と何らかの関係があったらしい。
 それだけではない。何かもっと大切な、そしてはるかに忌まわしい出来事が確かにあった。そして、それは…
 …分からない。頭が割れるように痛い!…きっと自分はその事を思い出したくないのだ。でも何か過去の事を思い出せば、多分・・・その事の記憶まで引き出されてしまう。だから、忘れた……
 ふと気付くと、向こうからミミが息急き切らして駆けてくる所だった。
「ミミちゃん…どうしたの?」
「さっき教団の人が来て…お兄ちゃんが…捕まっちゃったんだって!」
 ハッとする智美。だがグルザーの要求してきたものはさらなる驚愕を彼女に与えた。
(『主幹装置』…!!知ってる…!そう、確か・・あれは冷凍睡眠装置に…。でも、何で知ってるの?私は…一体何者なの…!?
 突然、とてつもない不安にかられて、弾かれたように駆け出す智美。得体の知れない、だが確かに自分の記憶の奥に潜む恐怖に怯えて…!!
 今までは記憶などなくても気にしなかった。支えあえる人がそばに居る、それだけでいいと思えた。だが、何か…何かとても大切な事を自分は忘れているのだ。そしてまた、とてつもなく恐ろしい事を…!
 ようやく立ち止まった時、智美はあの洞窟の前に戻ってきていた。
 ブラックとの短く、幸せだった日々を過ごした場所…
 ついこの間までいた所なのに、とても懐かしいような気がする。しかしその短い間にも地上での度重なる発破で、すでに洞窟は半分埋まりかかっていた。崩れた岩の下に、ブラックの洋服の切れ端がはさまっているのを見付ける智美。
「ブラック…!」その切れ端を手に取って、智美は一人涙した。
 やがてひとしきり泣き終えると、智美は自分とブラックが最初に出会った場所−あのドーム状の人工空間−へ行き、自分が眠っていた冷凍睡眠装置を分解し始めた。
「戦わなくちゃ…!」再びあの幸せな日々を取り戻すため、そしてブラックの愛に報いるためにも、自分の過去と戦わなければ…!
 取り出した主幹装置と指輪を手にして、智美は指定の場所へと向かった。それを見送っていたミミが、ポツンとつぶやいた。
「…ねえ、お姉ちゃん…」「…なあに?」「あの人…黒かったね」
 一呼吸おいた後、少し笑って答える智美だった。
「ええ…とっても!」
        *            *
 ブルーと原が捕まり、採石場に連行されてきた。三人はまとめて十字架に磔にされる事になった。
 その十字架には陰湿な責め苦のための装置が色々と取り付けられていた。製作者であるDrローズ自ら電撃、毒ガス、高熱、棘など各機能をリモコンで操作し、三人をとことんいたぶりぬいた。がぜん盛り上がるグルザー軍団。エスカレートしてゆくアロハバッシング。
「こないだはよくもザンベ様とマチ様を封印してくれたでゲスな!」
「今度はお前等を封印してやるですじゃ!」
「マチを…封印!?」 「何だ?一体どういう…」電撃!
「ぐわああ!!」ぐったりする三人。
「…程々にしておけ。殺してしまっては元も子もない」
「ご安心を…じわじわいたぶるのは得意でしてよ」
 と笑う間もローズの指はリモコン操作を続けている。
「ぎゃああああ!!」原とブルーの叫びが辺りにこだまする。
 だがブラックはすでに責め苦にすらほとんど反応しないほど心を閉ざし切っていた。彼は虚ろな眼で目の前の地面を見つめていた。
 …影がおちている。十字架にかけられた自分の黒い影。
 そう…俺は人類の黒さを全てこの身に背負って磔刑に処される黒いキリスト、贖罪の救世主( メシア )……。それが自分の運命なら、あえてそれを受け入れよう。あえて未来の礎となろう。
 ブラックは甘美な逃避に身を投じていた。そうするしかなかった。

 そして指定の時間きっかりに智美がやって来た。
「トモ…ミ…?」かすかにブラックが反応をみせる。
「よせ、くるなーっ!!」と叫ぶブルーと原を電撃が撃ち、絶叫があがる。それを尻目に、智美を取り囲むグルザー軍団。
「よくきたな、智美…。さあ、約束の物を渡してもらおうか?」
「……」
 技師長クランクが主幹装置を、ローズが指輪を受け取る。
「これで『パンドラの扉』を開き、『女王』を蘇らせる事が出来る!世界は…我らの元にひざまずくのだ!!
 うおおおおお!!と大歓声を上げる軍団。
「何か…すごくヤバそうだぞ!?「くそっ…俺らなんかの為に!」
「…約束は守ったわ。さあ、ブラック達を離して!」
「…フン!」ビシッ、と智美を鞭打つローズ。倒れる智美!
「バカだね、本気でそんな約束を守るとでも思ってたのかい!?
「…っ!!」 「おかしな真似はするんじゃないよ!このリモコンで、いつでも十字架は吹っ飛ばせるんだからねえ?」
 やむなく隠し爆弾を捨てる智美。これでもう捨身の攻撃すら出来ない…。高笑いし、智美をさらに鞭打つローズ!
「トモミ…智美ー!!
「アハハハ、いいザマだよ智美!この瞬間をどれほど待った事か…!」
「…!?」智美の不審げな表情に、ローズはふと眉を顰めた。
 そしてはっとして、「お前…まさか記憶が…!?
 一瞬躊躇した後、小さく頷く智美。
「何…!?」とマシーンが身じろぎする。
「ふッ…ふざけるなっ!!」怒りに体を震わせ、顔を真っ赤にし半狂乱になりながら倒れたままの智美を鞭打つローズ。
「忘れただと!?忘れただと!?貴様…!!
 服が裂け、鮮血が辺りに飛び散る!! 「智美!智美ーっ!!
 だが、ボロボロに打たれながらも智美は隙をうかがっていた。
(もう少し…もう少しでローズのリモコンに手が届く!そうすれば…)
「…おい、何をしている!?
 ビクッと身を縮める智美。だがマシーンはそれとは別の方向を見ていた。主幹装置を手にした技師長クランクが、ゆっくりとあとずさりしていたのだ。 「答えろ、クランク!」
 しかしクランクは身を翻して逃げ出した!!
「貴様ッ、何者でげすか!?」狼社長が得意のソロバン玉を投げてクランクの仮面を宙に飛ばす。その下の素顔を見て、軍団員は一様に驚いた!
「き、貴様…テラ!」 「…!!
「馬鹿な…それじゃ本物のクランクは!?
「……」一瞬前までクランクであったその男は、そのまま何も言わず森へと疾走した。呆然と立ち尽くすローズを残し、総出で彼−テラ−を追うグルザー軍団。
「…智美…今だ智美!…おいどうした!?
 だが呆然となっていたのは智美も同じだった。
「お…お父…さん…?」 「…!?
 突然堰を切ったように追おうとする智美。が、はっと我に返ったローズのムチが智美の首に巻き付いた!
「お待ち!逃がしゃあしないよ、智美!」
「離して…お父…さんが…」 「な…に!?
 なおも目が追い続ける智美。
「お父さん…お父さん!!「お父さん…だと…!?
 ギリ…、とローズの顔がどす黒い狂気に染まった。
「なにが今更『お父さん』だい、このアマが!そんなに会いたきゃ、生首にして会わせてやるよ!!
「智美っ!智美ー!!」叫んで暴れるアロハ三人。しかし十字架はびくともしない。その眼前でローズはなおも智美の首を締めあげた。すでに智美の顔からは血の気が失せ、口から泡を吹いて痙攣している…
「智美!智美ーっ!うわあああああああ!!」叫ぶしかないブラック。
「死ね!!智美ィィィィ!!
 その時、突如小さな影がローズに飛び掛かった!「ひいい!?
 狼狽し、不様に倒れて転げ回るローズ。小さな影の正体は…ホルス!
「犬は…ッ、犬はイヤアアアアアアッ!!
 この女、見掛けによらず犬が大の苦手だったのだ。
「お姉ちゃん!!」岩陰から飛び出してくるミミ。心配でこっそりついてきていたのだ。「大丈夫!?お姉ちゃん!」「ミ…ミミちゃ…ん」
 ダメージを負ったばかりの智美はすぐには動けそうにもない。するとミミはなおもホルスにまとわりつかれてのたうち回るローズに勇敢にも飛び付き、リモコンを奪って智美に投げた。「お姉ちゃん!」
 リモコンに最後の力を振り絞って飛び付く智美…そして三人の(くびき)が解かれる!「しまった!」とローズが振り返ったその瞬間には、既に三人は変身していた!
「貴様あぁーっ!よくも智美ををををっっ!!
 鬼神と化したブラックの突撃!!たじろぐローズ。
「ま…待て!この指輪がどうなっても…」
五月蝿(うるせ)えええ!!」かまわずローズに飛び掛かるブラック、が
「ダメーっ!!」という智美の叫びに、一瞬動きを止める。
「くっ!!」その隙にローズは指輪を遠くに投げると、それを囮にして逃げ出した。尚も追おうとするブラックを智美が止める。
「ダメ!指輪を回収して!」 「しかし…」 「お願い!!
「…くそっ!!」あまりにただならぬ智美の様子に、三人はローズの追撃をあきらめ指輪を回収する事にした。
 やっとの思いで見付けた指輪を手にブルーがつぶやく。
「前から思っていたけど…一体何なんだ!?この指輪…」
「…それは…多分…マチを封印できる、唯一の手段です」
「封印…!?」 はっとするブラック。
「グルザーも、俺達がマチを封印した、と言っていた…!?
「詮索は後にしようぜ。今、グルザー達が戻ってきたら…」
 頷き、逃げる一同。
 かくして、アロハマン達はその最大の危機を乗り越えたのだった。

 脱出行も一段落つき、丘の上から今来た道を振り返る智美。
「…お父さん…!」寂しそうな智美におそるおそる問い掛ける原。
「智美…君、もしかして記憶が…?」 !!
 息を呑む一同。智美の記憶が戻ったのなら、これまでの全ての謎が明らかになるのではないか…!
 冷凍睡眠していた事や先程のやりとりから察するに、智美はザンベやマチ、そしてグルザーと過去において関わっていた事は間違いない。
 だが、一体それはどれほど昔の事なのか?なぜ「彼ら」が今この時代に蘇ったのか?いや…そもそも「彼ら」は一体何者なのか!?
 …そして・・・・・・・・先代のアロハマンとは、一体何者なのか?
 ホワイトもやはり・・先代の関係者なのか?封印とは?指輪とは?主幹装置…パンドラの扉…そして「女王」とは…!?
「…いえ…」智美は消え入りそうなかぼそい声で言った。
「…わからないの…ほんの断片的にしか…」そして突然、語調を強める。
「だけど、これだけは確かです。…あれは、間違いなくお父さんだった」
 そこまで言って、智美は言葉を切った。
「変ですよね…自分が誰かもまだ全然思い出せないのに…」
 自分は一体何者なのか。何か恐ろしい因縁があった事だけは分かる。 …このまま皆を巻き込んでしまってもいいのだろうか…!?
 長い沈黙が訪れた。
「…わかったよ」ようやく口を開いたのは原だった。
「それなら尚更、智美のお父さんを助けださなきゃな!」 「え…」
「そうだな。そうすりゃ全てがハッキリする」
「いいん…ですか…!?」智美は息を呑んだ。
「グルザーと正面衝突する事になりますよ!?いくらあなた方でも勝…」 智美の言葉を、原がさえぎる。
「俺達、正義の味方だぜ!?」 「勝ち目がなくても、絶対勝つのさ」
「みなさん…」智美は涙で濡れた顔を両手でおおった。「ありがとう…」
 泣き笑いしながらその涙を拭う智美。
「ほんとうにありがとう…みんな…!!」ホルスが智美にその身をすり寄せた。ミミが智美の背中にポンと手をかける。
「ミミちゃん…」 「ね、あたしにも手伝わせて、お姉ちゃん」
 エヘ、と笑うミミ。
「…SM教をやっつけないと、パパとママの所には帰れないもんね」
 はっとする智美。こんな小さな子供までもが「彼ら」の犠牲になっている…そしてこんな小さな子供までもが戦う決意を固めているのだ!
「ええ…そうね!」頷く智美。「戦いましょう!グルザーと!!
一同「おー!!

「……」皆が盛り上がる中、ブラックは一人、何も言えないでいた。
 わかってはいた。智美の父の生存を共に喜んであげるべきだと。
 わかってはいた。その救出を共に誓わなくてはならないのだと。
 わかっていたのに…なにか得体の知れない不安がこみあげてきて、どうにもそれを止められなかった。ブラックは一人、ぶるっ、と震えた。


 
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