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ALOHAMAN IN ETERNAL SUMMER
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第77話
突入!グルザーSM要塞!!
1989年9月9日放映


 狂気に染まった黒い影が襲ってくる!!
 スーツを破き、のしかかり…
 私の腕を押さえ付けながら、黒く光った淫棒を…
「嫌アアアアアアァァァァァーーーーッッッッッ!!!!!!
 泣き喚きながら、智美はその目を覚ました。
「はあ、はあ、はあ…」凄まじい恐怖による激しい動悸と脱力感…
「…落ち着いて。ここにはあなたを襲う者はいないわ」
 ・・・・・ホワイトが・・・・・・・智美を励ました
 全身をびっしょりと濡らした脂汗を拭おうとして、両手が鎖で壁に繋がれているのに気が付く智美。…グルザー要塞の地下牢である。
「そっか…捕まってるんだっけ…」
「そうよ。もう、二日目」
「『ホワイト』…。あなた、まだ、・・いるのね」
「当然でしょう。だって私は…」 「……」
 二日間の間ほとんど水も食料も与えられていない。智美は、既に心身共に弱り切っていた。
「…必要以上に気落ちするのは感心しないわね。あれは罠よ。別にテラ本人が騙した訳じゃないわ」
「だから、何!?」ホワイトの何もかも分かった風な物言いに対して、智美は少々ヒステリックになっていた。
「考えてみれば、あの採石場でのテラも本物だったのかどうか…!そもそも、本当に私にそんな父親が居たのかだって怪しいものだわ!」
「……」ホワイトはしばらく沈黙を続けた。

 最初に・・あのメールが来たのは、ブラック達が必死にテラを探し続けていた頃だ。智美もまた、血眼でパソコンを駆り続けていた。
 だがネット上には何の情報も見付からなかった。
 智美は苦悩した。不安と絶望に押し潰されそうだった。
 …恐かったのだ。得体の知れぬ自分の正体が…。
 自分はかつて何か恐ろしい…あるいは世界の運命をも変えたかもしれない「何か」に関わっていたのだ。それが何かは分からないが、その気配…確信めいたものだけは感じていた。…確信…。智美には、確かなものが何もなかった。ただ一つ、ブラックの愛を除いて。
 …ブラック…!私が自分の「過去」を突き止めなければ、いつかきっとブラックを、そして皆を巻き添えにしてしまうに違いない…!
 そんな時にあのメールが届いたのだ。『最愛のわが娘、智美へ…』と。
 それはやっと手にした、大切な「真実」。
 失われた自分の、たったひとつの確かな痕跡。そして希望…
「…あの時からあなたは、『テラのメール』にすがって周りが見えなくなった…。それが結果的にブラックを追い詰めた一つの要因ね」
「なによ…追い詰めたのはあなたでしょう!?
「私は事実を認識させようとしただけ。けどあなたは事実そのものを変えたのよ。『あなたを支える事』だけを心の支えにしていたブラックから離れる事で…」
「うそ…!」
「本当よ。現に、彼の様子がおかしくなったのは、最初のメールが届いた後じゃない」
「……」
「それが、ブラックが・・私達を襲った原因」
「…そんな…私のせいだなんて、そんな筈…」
 やさしかったブラック…。守ってくれたブラック…。
 突然この見知らぬ世界に放りだされた智美が、それでもなんとか今までやってこられたのは全てブラックが居てくれたからだ。
 笑っていられたのも、優しくなれたのも…一人でグルザーに立ち向かえたのも、全てはブラックが居たからだ。
 なのに…
 ブラックは智美を襲った。智美を襲ったのだ!!
 あの瞬間を思い出すだけで今だに震えが止まらない。
 あんな恐ろしい目にあったのに、悪いのは自分だなんて、そんなのおかしい!…大体、ブラックは確かにホワイトに怯えていた。そして彼を追い詰め、襲われたのもまた…ホワイトの筈なのだ。
 なのに…結局は自分がアロハホワイト!?
 もう、何が何だか分からない。
「自分」はたった一人だけしかいない、という全ての大前提、絶対条件が崩れてしまったのだ。
 もう何も信じられない…何も見たくない!何も受け入れられない!そんな気持ちを抱えてフィールドの中でたった一人泣き続けた私。
 そんな時、唯一残った信じられる物…テラのメールにこうあったのだ。
『…会おう。指輪を持ってきてほしい』
 ほとんど機械的に指輪を持ってテントを出ようとした智美に、初めてホワイトが心の中から呼び掛けた。
(ダメ…指輪は置いていった方がいい!)
 …アロハ・ホワイト。今まで智美は無意識下でその人格を押さえ付け、表層意識に昇ってこられないようにしていた。だからホワイトが表に出てこられるのは、智美の意識が眠っているか、失われた時だけだった。だが智美が自分の中のホワイトの存在に気付いた今、ホワイトは智美に話しかけられるようになっていたのだ。
 最初は幻聴だとさえ思った。だがホワイトが諄々とメールの怪しさを諭すに及んで、指輪を置いてゆく事にした。
 だが、決してホワイトを信じたわけではなかった。ホワイトの声が欝陶しかったからとりあえず従っておいただけで、メールの示す場所に行きさえすれば必ずテラに会えると信じ切っていたのだ。
 だが、約束の場所に現われたのはマシーンだった!
「まんまと引っ掛かったな、智美…全てのメールは私の流した偽物だ」
 …またしても、自分の信じたものに裏切られた。
 もうこの世に信じられるものなど何もなくなってしまった。
「お姉ちゃん!!」すでに辺りはグルザーに包囲され、ミミとホルスも捕まっていた。ブラックの近くには置いておけないと思って連れてきたのが、かえって仇になってしまった。
 …逃げなくちゃ…
 …自分の敵から。そして味方だと思っていた者からも…
 …自分を裏切るかも知れぬ、全ての物。
 この世界の全てから。
 この現実の全てから…!!

「様子はどうだ」隣のモニター室でマシーンが尋ねる。
「相変わらずでゲス。何かブツブツと口の中でつぶやいてばっかで…」
 マシーンは苦り切っていた。前々回のローズの報告に基づいて、今の智美の精神状態の急所を突いた完璧な段取りを立てた筈だったのだ。
「あのメールには催眠効果まで仕込んであったのだ。もはや判断力もロクになかった筈なのに、それでも指輪を持ってこなかったとは…」
 考え込むマシーン。
「智美にはまだ何か別の不確定要素があるのか?…それも『心』のなせる技だというのか…!?
 マシーンの両眼が冷たく光った。
         *          *
 朝になっても、夜になっても、その次の朝になっても智美は帰ってこなかった。ブラックは魂のヌケガラ状態。原とブルーも、心にぽっかり穴が開いたような気分だった。
 戦う理由…それがなくなった気がした。
 長官にも見離され、ネオも全滅した今、この先奴らと戦っていく事など出来そうもない。
「もう…俺達、ダメかもな」ぼそり、とブルーがつぶやいた。…もちろん、誰も言葉を返す気力などない。気がつけば、いつのまにか子犬がよってきて人懐っこそうな声を上げている。
「…ホルスじゃないか…お前、今までどこにいたんだ?」
 頭を撫でようとしてふと見ると、泥だらけの首輪に何かついている。
「こ、これは…『テラ』からの手紙だ!」
 ブラックの瞳孔がわずかにゆれた。
「智美が…」息を呑む原。「智美がグルザーに捕まった!?

 ガケ肌に口を開いた巨大な洞窟…そこにグルザー要塞はある。
 ここの地下洞の強制労働所にはSMに反抗した人々が大勢、囚われの身となって巨大な臼を(キャプスタン)回す重労働を課せられていた。この回転により基地の電力が賄われているのだ。
 マシーンに捕らえられたミミとホルスは、智美とは別にここに送られ、そこでなんと本物のテラに出会っていた。彼はあの採石場での逃亡の後、変装して自ら進んで捕まり、地下で働きながら内部情報を探ってグルザー撹乱の準備を進めていたのだ。まさに灯台下暗し。敵の裏をかき安定した衣食住も得られて一石二鳥という見事な戦法である。
 ミミから情報を得たテラは早速それに基づいて計画を企て、手紙を持たせたホルスを換気口から逃がしてアロハ3人の元へと走らせた。
 内部蜂起と刻を合わせてアロハマンを突入させようというのだ…!

(…それでも、まだ確かな事はあるわ。…私が( ホワイト )ここに居て、決してあなたを騙したりしないという事)
「そんな事を言って安心した隙に私の体を乗っ取るつもりじゃないの!?
(…どうもかなりの誤解をしているようね。この際ハッキリ言っておくけど、私がこの身体を使うのは戦闘の時だけで十分。それにこの身体は私のものでもあって、決してあなたの専有物ではないわ)
「な…私は私よ!これは私一人の体よ!!今すぐ私の中から出てって!!
(…それは無理ね。私たちは心が二つに分かれてしまっているだけで、魂は同じ一人の人間なのよ。私も詳しい事は覚えていないけど、昔…)
「もういい、やめて!もう嫌なのよ…あなたが私の中に居る事が、ブラックに襲われた事が、ブラックを信じていた自分が…!」
(智美、私は…)
 うつむく智美。
「私は私一人の筈なのに…どうしてあなたが私なのよ…私は…もう自分自身の存在すら信じられない…」
(…私だって、この状態を受け入れがたいのは同じよ。だけど私は多分、感情ではどうにも出来ない事に対処する為に存在しているのだわ)
「……」
(協力して。私にはやらなければならない事がある…。だけど、私はあなたの意識がなくなった時しか表に出れない)
「…私には貴女の存在が事態を悪化させたとしか思えないわ…これ以上、何をしたいというの」
(ザンベとマチ…そしてグルザー軍団を倒す!それが私の記憶にある私の使命、唯一の存在理由よ。別にブラックを追いつめたかった訳じゃない。ただ奴らはあまりに強大だから、少しでも勝算を下げる要素は排しておきたかっただけ)
「……」
(だから、智美…)
「…ひょっとしたら貴女が正しいのかもしれない…でも貴女をやっぱり、受け入れる事は出来ない…貴女と同じ人間だなんて、私は絶対に…!」
(……)
「だけど…もういい…好きにして。私はもう…」
(…智美…?)
 ブラックも、テラも…自分自身も!全てが信じられない、全てが敵かも知れない世界の中で、傷つき、疲れきった智美にはもう、苛酷すぎる「現実」に自ら立ち向かうだけの力は残っていなかった。ホワイトを内に閉じこめ続ける気力も…
「もういい…もういいの。放っておいて…。私は…疲れた…」
 智美は沈んだ。心の深い領域に落ちてゆき、意識を閉ざした。
 …そして、みるまに・・智美の表情が変貌した。
「…貴女のいう事も分からなくはないわ」
 それは、休息の為かもしれない。
 自分の役割を認めたのかもしれない。
 …だが、つまるところ彼女は逃げたのだ。
 全ての敵、全ての苦難、全ての「現実」というイバラから…
「…ブラックもそうだったけど…どうして人間はいちいち感情を差し挟まなければ気が済まないのかしら。()くにしろ、退()くにしろ…」
 それが、心。分かってはいるのだが、どうにもついていけない感は否めない。
「それでも、私は戦わなくちゃいけない。どんな犠牲を払っても、ザンベを、マチを…そしてグルザーを葬り去らなければならないのよ!」

「放っといてくれよ…」闘う意気を取り戻した二人とは裏腹に、ブラックは心を動かそうとしなかった。
「智美を救けたくないのかよ!!
 ブルーの言葉に、怯えた目をするブラック。だがすぐうつむいて、
「今更…」と言ったきり、口をつぐんだ。
「今更、何だよ!お前このまま何もしないで終わる気か!?
「もういいよ…俺みたいな奴、生きていたって仕方ないんだ。生きてる価値なんかないんだよ…!」
「…だったらどうして死なないんだ、この卑怯者!!
!?」…『最低』ならばともかく、『卑怯』とは…?
「自殺する勇気もないくせに、一人でいじけるフリしてりゃそれで許されるとでも思ってんのか!?もしもそうなら…お前はただのクズだよ!!
「……」返す言葉もないブラック。
「もういい…お前にはうんざりだ!!二度と俺達の前に現われるな!」
 遂にブラックを見捨てて、二人は出撃していってしまった。
「クズ…黒の次はクズ…」
 …そうだな、それがお似合いだ…

 その晩、月の入りと共にテラの合図で囚人が一斉ストライキを敢行し、主電力が落ちて要塞の全機能が停止した。と同時に、テラが各ケーブルに仕掛けた爆弾のスイッチを入れる。
「ダメです、予備電源(東京電力)に切り替わりません!」
「チイッ!下は何をやっているんだ!?
 一斉蜂起する囚人達。基地内に非常警報が鳴り渡る。だが事態を予測していなかった職員達は、対応が遅れて戸惑っていた。
 …そして闇に紛れて突入する二人のアロハマン!
 彼等が基地内を撹乱する間に、テラは他の囚人達をひき連れて脱出を開始!同時にミミは携帯電話を持って智美を捜しに出た。この非常時下なら小さい子供は無視されるだろうし、智美の居場所は大体見当が付いている。そして午前四時までに何の連絡もなければ脱出済みとみなして、爆薬と・・・ある物を使って要塞を壊滅させる予定だった。あとはアロハマン達がグルザーをどれだけ抑えられるかが勝負の鍵だ。
「奴らを倒す必要はないんだ…撹乱して時間を稼げばそれでいい!」
 だが、相手はネオさえ全滅の憂き目にあった最強(グルザー)軍団…!
「へ…っ!生きて帰れるかな?」
「帰るのさ…智美とミミちゃんを連れてな!!

 もう東の空が白み始めている。ブラックは夜中ずっとフラフラと歩き続けていた。
 …このまま実家へ帰るつもりだった。アロハマンとは何の関係もない土地へ行きたかった。そこで原の言う通り、クズとしてクズの一生を全うするのだ。皆から忌み嫌われ、罵倒され…それでも惨めに生き長らえる。そうしなければいけないのだ。死ぬ事も出来ない、この俺は…
 だが気付いた時、彼はグルザー要塞を見下ろせる丘の上にいた。銃撃や爆発の音がここからでも聞こえてくる。
「…なんで、こんな所に居るんだよ…」
 迷宮の中で、再び同じ所に戻ったような絶望感。
「…もう俺には関係ないのに…関わる資格もないってのに…」
 消え入りそうに立ち尽くす彼の後から、一人の男が声をかけた。
「君は、アロハブラック…だね?」「…?なんで俺の名前を…?」
 何となく初めて会った気がしない。どこかで一度見たような…
「ああ、申し遅れた。私の名前はテラだ」「あんたが…!」
 この間の採石場ではほとんど一瞬しか顔を見ていない。面と向かって会うのはこれが初めてだった。
「いや、正確には初めてという訳じゃない。以前に君と智美を屁海の中から助けた事があったが…まあ、あの情況では覚えてないか」
「そうか…あれはあなただったんですか!俺はてっきり…」
 ホワイトが…と続けようとして口をつぐんでしまうブラック。
「…ところで、君はこんな所で何をしているんだ?」
「何って、別に…俺はもう戦わないから…そう、決めたから」
「君ほどの男がかね…!?」テラが眉をひそめる。
 ブラックはぷい、と向こうを向いた。
「グルザーもそうだったけど…先代とやらと俺を一緒にしないでくれませんか。そいつがどれほど凄かったのか知らないけど、俺は俺なんだ…凄いどころか、最低の奴なんだよ!!
「……」テラ、しばらく黙り込む。
「…よかったら、何があったか私に話してくれないか」
 事の経緯を語るブラック。はじめが気乗りがしなかったが、次第に気が楽になる部分がある事に気付いてそのまま話し続けた。
 俺は、誰かに話を聞いてほしかったのかもしれない…。
 ひとしきり聞き終えると、テラはゆっくりと切り出した。
「過ちを犯したら罰を受ける…それではダメだ。それではなんの解決にもならない」 「知った風な…」
「知っているとも。私も過ちを犯してしまった人間だからな」
「…!?
「いいかいブラック、過ちは償わなければいけないのだよ。いくら自分に罰を課した所で…例えそれが「死」でも…所詮、君の一人よがりだ。それで君が手にかけた人を救える訳じゃない」
「…一人…よがり…」
「償うのだよ…生きて、生き抜いて自分のその手で!死んで償うなんていうのは、甘えだよ」 「……!!
 ブラックは、テラの言葉の壮絶な意味に絶句した。
 俺はもしかして…また自分一人が気持ちいい事に逃げ込んでたのか!?
 …踏み止まるのだ。踏み止まって、生き続けるのだ。そして償い続けなければならない…それが、それこそが償いであり、報いであり、本当の罰なのだ。クズの生き方なんて、そんな簡単な事で許されてしまう筈がない…!! 「俺は…俺は……!」
「私はここで囚人達の脱出を手助けしている。私にはそれしか出来ないからね。しかし君には…君にしか出来ない事がある筈だ。違うか?」
 …俺にしか…出来ない事…
「そんなの…ありゃしませんよ」
 テラだって自力で脱出した。きっと智美も…。…大体、智美は俺なんかがいなくても…!俺にやれることなど、多分、一つもない。
「そうかもしれない…だが、そうじゃないかもしれない。それは、誰にも分かりはしない。だから、決めるのは君だ。君にしか決断できない、君にしか出来ない事だ。…違うかね!?
 ブラックは自分の手を見つめた。
「出来るだけの事はやってから死にたいからね。お互い…」
 ブラックがふらふら歩き出す。
「…悔いのないようにな」
「俺に…出来ること…」
(智美…)
「俺にしか…出来ないこと…」
(智美…)
「俺にだけ…出来る償い…!!
(智美…!)
 ポケットにあった食料を、歩みを止める事なく猛然とかじり出し、やがて走り始める。
(智美を…・・・・・・智美を救ける事だ。たとえホワイトだろうとなんだろうと、彼女は、智美だ。ここで智美を救えなければ、俺は…俺は…!!
 走りながら変身した。
「オオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!!
 雄叫びを上げて要塞に突入し、群がる戦闘員を片っ端から薙ぎ倒す!
『アロハマン侵入』の報は苦戦中の二人とグルザー達にも伝わった。
「もしや、ブラック…!?」 「来てくれたのか!」
「チイッ…こっちはオトリだったんでゲスか!!
「奴の狙いは智美だ!智美を渡すな!!
 智美の所へ向かおうとするマシーンに飛び掛かるブルー、原!
「行かせるかーっ!」 「貴様だけでも足止めしてやる!」
「どけーッ!!」マシーンに弾き飛ばされる二人!!

 ブラックは鬼神のごとき強さを見せた。智美奪回を阻止しようと駆け付けたグルザー軍団すらモノともせず、八面六臂の大立ち回りを演じる。
「俺は…!俺は…!」ブラックの中の、何かが弾けた。
「ブラックだ!!俺はアロハマンの一人、アロハブラックだ!!!!
 どがん、と敵ごと壁を打ち砕いた!
 その向こうには、いましも連行される智美がいた…!
「…智美…!!」すかさず連行していた教団員を殴り倒すブラック。
「智美!大丈夫か!?
「ブラック…!?」少し驚いている智美。だがすぐに表情が消える。
「…あなた一人って事はないですね…他の皆はどこに?」
「智美…!?」血の気が引くブラック。「…いや…ホワイト、なのか?」
(なぜ…どうして?ホワイトに変身してもいないのに!?
「助けてくれてありがとう…でも、もう大丈夫。別行動を取りましょう。その方が敵を撹乱できるし、なにより・・安全だから」
 智美に…いや、ホワイトに見据えられ、すくんでしまうブラック。あれほど堅く誓った決意もぐらぐら揺らぐ…
(彼女は智美だ…智美だけれど今はホワイトだ…ホワイト、ホワイト、ホワイト、ホワイト…)よみがえる恐怖。自己崩壊のあの悪夢…
「う…うわ…」あとずさり始めるブラック。砕けてしまいそうな理性…
「そう、そうやって私から離れてください。その方が・・・・・・・・・智美も怯えずに済むわ」くるり、と踵を帰す智美(ホワイト)
「…!!」『智美』という言葉に、ブラックはだん!と踏み止まった。
(そうだ。俺は償わなければ。智美に…罪を償わなければ!逃げちゃ…逃げちゃあダメなんだ!!
「智美!…いや、ホワイトでもいい…俺と一緒にきてくれ!…テラの所へ案内する!」
「……」智美(ホワイト)が眉をひそめる。
「信じてくれ…これは君のお父さんの作戦なんだ!急いで脱出しないと、間もなくここは壊滅するんだよ!!
 しばらく沈黙する智美(ホワイト)
「…わかりました。テラの居場所を教えてください。私一人で行きます」
「そんな…」泣きそうになるブラック。
「言ったでしょう?あなたが居ると、智美が怯える。今のあなたは何をするか分からないもの」
「……」涙を溜めて、ゆっくり首を振るブラック。
「…頼むよ…」涙で消え入りそうな声…
「お願いだから償わせてよ!今更無駄かもしれない…だけどもう一度だけチャンスをくれ!!
 ブラックは、がばっ、と智美(ホワイト)に土下座した。
「智美を俺に守らせてくれ!今度は…必ず!絶対!!何があっても、守りぬくから…!!
「ブラック…」
 智美(ホワイト)が、浮かびかけた感情を圧し殺したように見えるのは気のせいか。
「そう…そこまで言うなら、まずは・・結果を見せてください」
「え…?」
「この情況で、しかもそのような可能性に賭ける訳にはいきません。人に信じてもらうには、それ相応の実績が必要なのですよ」
「と、とも… ホワ…」
 言葉が続かず、ただゆっくりと首を振るブラック。
「ホホウ…ずいぶん嫌われたようではないか、ブラック」
!!」 !?
 振り向くと、そこにはマシーンが立っていた。二人は、逃げるチャンスを失った…ブラックはチャンスを乞うあまり、現実のチャンスを失ってしまったのだ!唇を噛む智美(ホワイト)
「面白いものだ…貴様と、あの智美がなあ?」
「…知った風な口を聞くな…」
「知っているとも…一万年以上も前からな」 「な、何…!?
「どうだ?大人しく智美と指輪を渡せば貴様は見逃してやる」
「ふッ…ふざけるな!!誰がそんな事するもんか!!
「…自分を拒絶した女をなおも守るか?哀れだな」
「黙れーーーーッ!!!!!!」マシーンに飛び掛かるブラック。
「バカめ!前にやられたのを忘れ…!?
 肉弾激突!弾き飛ばされるマシーン!!
「バカなッ…この私がっ!?
「貴様に何が分かるっ!!
 間髪入れず殴りかかるブラック。だが今度はヒラリと避けるマシーン。
「フッ、今のは油断したがそう何度も…」と言い終わらぬ内にスラリと居合い抜きされた睾丸鞭の間合いに捕まり、大ダメージを受ける!
「ゴフッ…バカな、私の計算とスピードを上回るとは…!」
 翻弄されるマシーン。
「おのれ…これが『心』の力だとでも言うのか?」
 呆然とする智美(ホワイト)。…ホワイトだけでなく、その内側から智美もまた呆然と見守っていた…
(これは…この光景は、以前、どこかで…)
 そして、己を貫き続けるブラックの姿に目を見開かされるホワイト。
「ブラック…あなたは…!?
「うおおおおおおおお!!
 今や完全にマシーンの動きを封じ、鞭の一振りごとに大ダメージを与え続けるブラック!
「アアアアアアアアアアアァ!!!!!!
「ム…ムム…」全身がきしみを上げバチバチと火花を飛ばすマシーン。
 ブラックの(かお)は、狂気と勝利の確信に歪んでいた。
「これでトドメだ!ハアアアアアアアアア!!
 突然へにゃ…と萎えてしまう鞭。「!!!?
 睾丸鞭は本来の使用回数制限をとうに超え、精も根も吐き尽くしてしまったのだ!!ブラックの心のコクピット内のモニターでは、精子残量メーター(一回ふるうごとに億単位で減ってゆく)がゼロの数字を虚しく点滅させ続けていた。
…精子( エネルギー)が…切れた…!!
「…どうやら、もうその鞭は使えんようだな」
 白煙を吹きながらのそりと起き上がってくるマシーン。
「…たて!勃て!勃てよ!!今使えなきゃ何の意味もないじゃないか!!
 もはやしぼみ切った鞭の柄をいくら叩いても、こすっても、もう何の反応も示さなかった。
 ガシャン、と立ち上がるマシーン。
「勃て!勃て!勃て!勃て!勃ってくれよォ!!今勃たなきゃ、今やらなきゃ俺は…ッ!!!!」泣き叫び、吠えるブラック。
 ここで智美を守れなければ、俺はもっと黒くなってしまう!俺は全ての資格を失ってしまう!!俺は二度と立直れなくなる!!…二度と…智美の優しい声を聞けなくなる!!…そんなの…
「もう…そんなのやなんだよおおおォォ!!!!!!
 人外の雄叫びがあがった。…それはブラックの理性のタガが外れる音だった!!同時にマスクのアゴ部ジョイントも外れた!!その剥出しになった口はそのまま睾丸鞭の柄部(グリップ)、即ち…
「ナニを…喰わえてる!!!?」驚く一同。マシーンも思わす呆然!
「…自ら生殖( SS )器官を喰わえ込んだというのか!?
 先程まで見る影もなかったその器官は、あれよあれよという間に大勃起を果たした。…だが、タガの外れたブラックの行為はそこで留まる事はなかった。今や本来ある筈のない大きさにまですっかり怒張し脈打つそれは、ブラックの舌技に応えてとめどない放精を始めた!!
 …そして…なんと彼は・・それをそのまま飲み込み続けたのだ!!嘔吐を抑え切れぬ一同。
 ようやく駆け付けたブルーと原。それを追ってきたグルザー軍団。そしてやっと智美を捜し当てたミミ…全員が、呆然としたまま言葉もない。
「凄い…真黒(シンクロ)率400%を超えたわッ!」どんどん黒くなってゆく柄部のあまりの黒さを計測して舌なめずりするローズ。
 今や連綿と放たれる白濁液を自ら飲み続ける自己体内循環現象、怒涛の永久機関、それをもう、誰も止めることができなかった。
 ただミミの懸命な叫びだけが虚しくこだました。
「…オジさん、大変なの!黒兄ちゃんが…黒兄ちゃんが…!!

「午前4時か…」
 まだこの世界で日の浅いテラは、携帯電話に圏外というものがある事を知らなかった。
 テラは爆弾のスイッチを押した。


 
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