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第82話 決戦前夜 〜マチは無慈悲なSの女王〜 1989年10月14日放映
ザンベ・マチの日本縦断大コンサートマラソンの最終日は今や宴もたけなわ。会場は熱狂的なファンでみっちりと埋め尽くされ、さながら集団SM舞踏会といった雰囲気だった。
…その光景は、普通の人間から見ればまさに地獄の様相であった。だが互いにシバき、シバかれているこの者達は、わずか数ヵ月前までは皆その普通の人間だったのだ。 「見ろ!この世の醜い争いを!!人々は憎しみ合い、いがみ合い、殺し合う事を止めない!民族意識は弾き合い、主義と思想は折り合わず、強者は弱者から搾取し続ける!これでは世界から憎しみと不満はなくならない!真の平和は訪れない!ああ…我々は一体どうすればいいのだ!?」 マチの嘆息、そして哀しみを込めた沈黙に、全聴衆も息をひそめる。マチは辺りをゆっくり見回し、観客が今か今かと待ちわびた言葉を絶妙のタイミングで解き放つ。 「そう…SMだ!SMだけが全てを解消する!!」大歓声が沸き起こる。 マ「全人類がSとMに染まった時、そこに憎しみはない!搾取はない!不満もない!あるのはただ…互いに満たされた肉体のみ!!」 感激で失神するファンが続出する。 ザ「…わが教団はこれより更なる躍進を遂げるであろう…!まずは日本国教となり、そしていずれは世界宗教となる!そう…全ては地球全土をSMの名の元に統治せんが為!」 マ「まもなく二体の『巨神』が復活する…その時、地上に理想の世界が顕現するのだ!!」会場を悦びの絶叫が包む。 ザ・マ「…いざゆかん、我らが約束の地へ!!」 今や会場はザンベとマチを讃える大コールで飽和していた。 『世界は二人の為に!二人は世界の為に!!』 コンサートの興奮さめやらぬザンベは、その夜ホテルに戻ってからもマチに続きをねだった。彼はまだまだち〜っとももの足りていなかったのだが、連日のハードスケジュールがたたっていたマチはこれを冷たくはねのけた。こういう時、放置プレイというのは楽だ。 そこへネオ三人が参上する。 ザ「…マシーンの処置は終わったのか?」 1「は…先程、Drローズが起爆コードを無事解除しました」 マ「フン…何だか黒星続きだねえ。それでよく『大皇帝』だなんてほざけたもんだ。…で!?わざわざこんな時間に尋ねてこなきゃならない用ってのはなんだい?」 2「アロハマンとの対決許可を申請します」 マ「…今日も闘ってきたばかりじゃないか」 3「いえ、あのような策を弄したものではなく…」 1「正面から、正々堂々の対決で白黒付けたいのです」 「ほう…?」とマチの両目が細くなる。 マ「面白い…つまり、決闘というわけだね!?」 無言で頭を垂れるネオ。そこには、固い決意が漲っていた…! 「フ…フフ…」と笑うマチ。「イイことを思いついたよ…!」 回線でローズを呼び出す。 『一体誰だい、こちとら下らん修理のせいで疲れて…あッ!?こ、これはマチ様!?とんだご無礼をば…』 「よい」と一蹴するマチ。 「…明日中に指輪を摘出せよ。明後日には女王復活の儀式を執り行う」 「そ…そんなに早くですか!?」モニター越しにジロリとねめつけるマチ。 たまらず威圧されて頭を下げるローズ。 マ「…そこで前座としてネオとアロハマンを決闘させ、復活への饗宴としようと思う。その旨、マシーンにも伝えて万事ぬかりなき様に!」 ロ「は…ハハァッ!!」 「………」ザンベは部屋の片隅でその様子を眺めていた。 今のマチは以前にもまして頼もしい。自分はそんな彼女が好きだ。が…彼女の方は自分を必要としていない。 彼女はもう…一人でもやっていけるのだ。 「マチ子ちゃん…」ザンベが、小さく消え入るようにつぶやいた。 今夜もフラリと街に繰り出すザンベ。…全てが急速な展開を見せていく中、一人とり残され放置プレイに甘んずる体たらく。そんな我が身の惨めさは、それはそれで確かに大きな快感だったが、日々強大化してゆくザンベのM性はもう、とうにそんなものでは満足できなくなっていた。淋しさ余って浴びるように強い酒をあおり、いきずりの酔っ払い連中にいじめてもらっては気を紛らわす日々。 …Mはどんなに虐待されても罵られても喜びを見出だすが、相手にされない事を一番恐れる。存在出来なくなってしまうからだ。 決してマチが全くザンベの相手をしなくなったわけではない。だが… 復活当初から、青緑の指輪を絶えず身につけ続けていたザンベ。 一方、未だに紅の指輪に触れる事すら叶っていないマチ… 両者の違いは、僅かづつだがしかし確実に拡がり続けていた。 イデアの共振作用を持つ結晶オリハルコンの指輪…それがザンベの力の増大に、彼の意志とは関係なく拍車を掛け続けていたのだ…! …もはや、今のマチの力ではとうてい満足できない体になってしまっていたザンベ。その彼が街を歩くだけで、周囲の人間がたまらず(殆ど無意識に)シバいてくるのだが、これが案の定ちっとも効かない。 「もっと…もっとだ!!」たった今46人の親父による一斉ドロップキックを浴びたにもかかわらず、ザンベはもっと激しく続きをねだった!白目を剥き、泡を吹きながらもシバき続ける若者たちの猛攻にあっても、到底満足することはできなかった…! 「…もう誰でもいい!!誰か私を満足させてくれェェーーーーーーッ!!!!」 切なさのあまり、月に向かって吠えるザンベ。その背後に延々と続く、シバき疲れた屍の列…! …それを、物陰からこっそり写真に収める影があった。 「シャシャシャ…スクープ蛇マス…ッ!」 翌朝、すぐにも再度の出撃を、と焦るアロハマンを制止するテラ。 「気持ちは分かる…だが、今は体力の回復とネオへの対策が先決だ」 「でも…それじゃあミミちゃんが!」 それを遮るように、モバイルから着信音が鳴り響く。 テ「…通信か?差出人は………ッ!?」 それはネオからの『果し状』だった。しかもその決闘は「SM教団主催『女王』復活の儀」の前座であると申し添えられていた。 黒「畜生…なめやがって!」 だがテラは落ちついて思案しながら言った。 「フム…これはかえってチャンスかもしれんぞ。前回のようにマシーンとタッグを組まれたり、ミミちゃんを人質に使われたりしたら我々は万事休すだ。が…今回に限ってそれはない。マシーンも両者の一騎打ちを望んでいる筈だ」 原「…何故断言できるんですか?ロボットの考える事ですよ!?」 テ「……腐れ縁だからな…」微かに遠い目をするテラ。 「…それに儀式にはザンベ・マチ、二つの指輪の全てが揃う。これは再び彼らを指輪に封印する絶好のチャンスなんだ…!!」 智「『封印』…!」微かに表情を強ばらせる智美。 黒「け、けどそれまで悠長に待っていたらミミちゃんは…!」 テ「大丈夫、彼女は殺されたりはしない。…ローズの性格なら人質として生かしておく筈だからな」智美も黙ってそれに頷く。 青「…でも…俺達ネオに勝てるのかな。あいつら、以前にも増して強くなってるっぽいし…」 ブルーに『以前』の記憶がある事に驚くブラックと原(そこかい)。 テ「…その事だが、わずかに勝算はある。この間の戦闘で私はネオに 『あるモノ』が組み込まれ、作動している事を確信したんだ。吉と出るか凶と出るかは分からないが…」 ざわ、とどよめくアロハ3人。 原「な…なんですか!?その『あるモノ』って!!」 「それは…『男闘呼回路』だ」「おッ…『男闘呼回路 テ「男闘呼回路…それはいわば機械仕掛けの、人工の魂だ。私の・・先輩が作ったものなんだが…こいつはいわゆる『男気』によって成長するんだ。私の見た所、既に君達との戦いでかなりの所まで育っている筈だ!」 青「育つと…どうなるんですか!?」 テ「…『心』を…得る事になる。そして同時に、時折君達が見せる爆発的なパワーをも…!」 黒「そ…それじゃ勝てないじゃないですかあ!!」 テ「確かにそこだけ見れば…な。しかしこれは同時に弱点を抱える事でもあるんだ。つまり…『精神系の攻撃』に弱くなる!今なら砕玉剣も通じるし、なによりカノンが致命的なダメージとなる筈だ!」 …なんだか良く分からないが、とにかくこれで付け入る隙が出来た訳だ。しかも戦いが長引くほど回路が成長し、こちらが有利になるかもしれない! テ「…しかし私はネオを造りはしたが、男闘呼回路など組み込んではいない…一体誰が!?…いや、そもそも…!」 今更ながら浮かび上がってきた疑問に大きく目を見開くテラ。 「…・・・・・・・・・・・・・・誰が現代にネオを蘇らせたのだ!?あの大戦で失われてしまった筈のネオを…!?」 原「…いや……やっぱ、長官じゃないのかな?」 テ「…長…官…?誰だ、それは!?」口々に説明する三人。 だが彼等にもよく分かっていないのか全く要領を得ず、強いてまとめると『下から出てきて命令する、なんだか妖怪じみた存在』…ということになった。余計に混乱するテラ。 「と…とにかく、だ。ここは少しでも勝率を上げるために万全の態勢を整えるべきだろう。泣いても笑っても、これが最終決戦…!それまで各自、己れの技を研鑽してくれ!」 「特訓…か!」思わず拳に力を入れるブラック。 「開放拳」という新技を得たものの、今の彼には攻撃技が欠けている。智美を襲ってしまったトラウマで、今だに睾丸鞭を使えずにいるのだ。 もう二度と…二度とあんなヘマを繰り返すわけにはいかない!!智美を毒から守れなかったあの時のように…!! 「…何の用件だ、ローズ…。指輪はどうなっている?」 同じ頃、ローズがマチの所へ参内していた。 「間もなく手術の再準備が整いますわ。…それより、これを…」「?」 耳打ちしてくるローズに眉を顰めるマチ。だがすぐその顔色が変わる。「…こ、これは…ッ!」 それは何十枚にも及ぶ、ザンベのあられもない写真の数々だった! 「ザンベ様は貴女のシバきに飽き足らず、夜な夜な街に繰り出してはこのように淫らな行為を…!」わなわなと震えるマチ。 マ「…わ…私というものがありながら…ッ!」 ローズはマチが冷静な判断力を失ったのを見計らい、ザンベは国民総S化を企んでいる、一億の民に一人シバかれるハーレム建設を目論んでいる、とデッチあげた。顔面蒼白になるマチ。平静を装っては居るが、怒りとショックを隠しきれず、目が泳ぐ。 その背後からねっとりと囁くローズ。 ロ「あの男はマチ様にふさわしくありませんわ。貴女様には『世界』こそがふさわしい…」 マ「世界…」 目を細めるローズ。一息置いて殺し文句を言い放つ。 「…人類という種そのものをシバくのです!!」 ゾクッ…、とするマチ。「いいね…感じるよ、それ…!!」 ワインをあおり、妖艶に舌なめずりするマチ。 「そう…神は一人居ればいい…!」言葉巧みにマチを唆すローズ。 「そして全人類をあまねくMに!その為の巨神は『女王』一体あれば充分!明日の儀式は唯一絶対の神、神聖女帝マチ様の即位式となるのです!!」「フフ…」ワインも程よく回り、艶やかに上気するマチ。 ぐらり、と心がゆれる音が聞こえたようだった。 「よし…一刻も早く指輪を!」「ハッ!」 「アーッハッハッハ!」自室で大笑いするローズ。 「でかしたよ、蛇マダム!」「オーホホホ!お役に立てて光栄蛇マス…これでもストーキングは得意中の得意蛇マスのよッ!」 『蛇マダム』と呼ばれたその女は割れた舌をチロチロ出しながら得意げに笑った。グルザー下級幹部にしてローズ子飼いの怪人だ。 「ヤダわァもう!」「アラ!チョイと!!」などと熟女同志一頻りおだて合った後、退室する蛇マダム。 「…………」 先程までのテンションを静かに内に込め、クローゼットに歩み寄るとおもむろにクマのぬいぐるみを胸に抱くローズ。 「ジャンポール…もうすぐ全てが私のものだよ…!」 …覗き込んだジャンポールの瞳の奥にテラの、そして智美の面影を重ねて顔を歪め、ギリギリギリ…とその首を締め上げる。 「ヒ…ヒヒヒ…、もうすぐ…もうすぐ殺してやるからね…!!」 そのままジャンポールの鼻を、頬をべろおっ、となめ回し、後ろから耳を噛む。 「ヒヒヒヒ…!誰にも渡すものか!女王の…神の力は私のモノだ…!!」 …ローズは昔から支配願望の強い人間だった。一番でなければ気が済まなかった。…というよりも、人の下に立つのを何よりも嫌った。そんな彼女がイデアの力に目を付けたのは、至極当然といえるだろう。グルザーに寝返ったのも、その後『女王』建造に携わったのも全てはその為だった。マチに対する忠誠心などカケラもなかった。それどころか、いつか自分がマチのイデアを取り込もうとさえしていたのだ…! 「…その時こそ私が真の女王に…世界の女王になるッ!!永遠に美しく、永遠に強いままでいられるのよ!素晴らしいと思わない!?…ねえ、ジャンポール……!!」 「…フン…愚か者共め」 スッ…と壁から手を離すマシーン。壁を伝わってくるビル中の音から特定の人物の声を拾いだす事など、彼の処理能力には容易い事だった。 「…貴様を泳がせてやるのもあと少しの間だ。女王を復活させ、アロハマンを倒してしまえば用はない…」…そして、その後は… 「フ…フフ…」不敵な薄笑いを浮かべるマシーン。 その向こうで壁にもたれ瞑想していたヨロイが呟く。 「…負けたりはせん……彼奴らは、な…」 アトランティスでの戦いでザンベ・マチ・マシーンを除けば唯一、自分と互角に戦うことが出来たアロハマン。だが遂に雌雄を決する機会を得られぬまま、奴らはザンベ達を封印して命を落としてしまった。 「…奴らは必ずここまで這い上がってくる!その時こそ…今度こそは必ず奴らと…!」ククク、と身体を震わせてヨロイが笑った。 ギラリ、と無影灯が手術台の上のミミを照らしだす。 正午を過ぎた頃、ローズの研究所ではようやくミミの開腹手術が再開されようとしていた。手術台を囲むガラス張りの向こうでは、ローズが数人の部下に指示を出している。 ミ「放して!ここから出してよー!」ロ「ええい、うるさいガキだね!」 ミ「キャアアアアアアアアアッ!!」 電気ショックのボタンを押すローズ。死なない程度に最も苦しい仕方で虐げる、その加減にはいやらしいほど長けていた。 ミ「イヤアアアアア!ヤメテエエエェェ!!!!」 ロ「まだまだ元気なようだねえ!」更にボタンを押そうとしたその時…機材の物陰に潜んでいたホルスが、その手に飛びかかって噛み付いた! ロ「ぐあッ!?」 ミ「…ホ…ホルス…?」ガラス越しに気付くミミ。 ミ「…なんで…逃げなかった…の…」 ロ「おのれェ…何度も何度も!」 ローズの毒鞭でしたたかに打たれ、壁に叩きつけられてそのまま動かなくなるホルス。 ミ「!?ホ、ホルス…ホルス!…いやあああァァーーーッ!!!!」 突如眼も眩まんばかりの閃光がほとばしった! ロ「こ、これは…ッ!?」 手術室のガラスが一瞬にして弾け割れ、同時にあらゆる機器が爆発して研究員達を巻き込んだ!そして呆気に取られるローズの前方には…全身から光を放つミミが宙に浮かんでいた!! ロ「バッ…馬鹿な!!いくら指輪を飲み込んだからって、改相もしてない人間にこんな力が…」ハッとしてCT写真を見るローズ。 ロ「そんな…!結晶オリハルコンが小娘の身体に同化吸収されている!?」 爆発のショックで研究所内にアラームが鳴り響く。異変を察知してリハビリルームから駆け付けるマシーン。 帝「ムウ…これは!?」 惨状を呈する部屋の真ん中には、なおも発光したまま子犬を抱えて泣き叫ぶ少女の姿があった。 「…ホ…ホルス…ホルスーッ!!」しかし、ホルスは目を開けなかった。 「…なんで…どうしてこんな事するの…?」もの言わぬ愛犬をきつく胸に抱くミミ。…やがて涙の溢れる眼でキッとローズ達を睨む。 「…許…さない…ッ!!」散乱したガラス片がゆっくりと空中に浮かび上がり、次々と細かく砕ける! ミ「…絶対…!絶対!!絶対許したりするもんかぁーーっっ!!!!」 光が更に爆発的に強くなる! ミ「つ!ぶ!!れ!!!!ろーーーーーーッッッ!!!!!!!!!!」 全ての力を開放するミミ!壁が!天井が粉砕される! 帝「…ムッ…ムオオオオオッッ!?!?」 マシーンがミミを捕えようとするが近付けずに弾かれる!! 大爆発!!!! …研究所の火災が鎮火した後、そこには原形を止めるものは何も残っていなかった。余りの惨状にマシーンとローズの生存を絶望視する研究員達。…だが…瓦礫の山をガラガラとおしのけて、マシーンが奇跡的にその身を現わした。マントの下には、気絶したローズも救けている。 帝「…こいつにはまだ色々とやってもらわねばならんからな…」 …よく見るとマシーンは片腕を失っていた。ミミを捕えようとした時に、吹き飛ばされたのだ。マシーンは愉快そうにつぶやいた。 「フハハ…面白い…実に、面白い……!」 心配そうに取り巻く職員にローズを投げ渡して号令する。 「その女を起こして少女を探索しろ…!私は『儀式』の準備を始める!」 そんな事を知らないアロハマン達は、今も黙々と特訓を続けていた。 三人はそれぞれ基礎体力を鍛え込むと同時に、独自に考案したメニューをこなしていた。…原はなぜか超能力(スプーン曲げ)の開発に没頭し、ブルーはホームセンターで何やら材料を買い求め工作に励んでいる。 …そしてブラックは、今だに鞭を取り出す事が出来なかった。 既に何百通りものイメージトレーニングをこなした。強精剤だって尻から鼻血が出るほど飲んだ。叩いても、擦っても、火を付け、薬液に浸しても、滝に打たれ、岩に打ち付け、塩でもみ、日に晒しても全くピクリともしなかった。余りに自分を痛め抜く彼を思わず止めに入る智美。 智「…なんでそこまでやっているのに使えないのかしら…」 黒「……こ…恐いんだ……!!」 見えない何かから身を守るように頭を抱えるブラック。その目はあらぬ一点を凝視しながらも小刻みに震える。 黒「く、下心 …かつては下心のおもむくままに、己の恥部を曝け出していた自分。それを昔は恥ずかしいとも何とも思わなかった。むしろ鼻に掛け、誇示してさえいた。 …今はそれが恐い。そして…恥ずかしい! 『黒』い自分を曝け出す事で、壊れてしまう何かがあるのに気付いてしまった。『恥』を覚える相手に出会ってしまった。 …『白』と『黒』の違いに気付いてしまった! 「…それって、つまり…」そこまで聞いて思わず息を呑む智美。 黒「…お、俺は…『白』みたくキレイじゃない!!純粋じゃない!!何も照らさない!!・正・義も…・・・気高さのカケラもないんだって!!!!」 「………!!!!」ブラックの、魂を引き裂くような激白に胸を締め付けられる智美。その彼女に、なおもしがみつくような視線を向けるブラック。 「…とっ、智美…お願いだ!!本当は、全部終わってからにすべきだって分かってる…けど!…けど明日、生き残れるとは限らないから…!これが最後かもしれないから!!だから…」 ブラックの瞳孔が見ていて痛い程ギュッと収縮する。 「智美…好きだ!!これが終わったら、結婚してくれ!!!!」 智「!!!!!!!!!?」…予想していなかったわけではなかった…それでも、心臓が止まるほどの衝撃を覚えてしまう!! 黒「…智美が一緒に生きてくれるなら、頑張れるから…!!生きててもいいって、思えるから!!だから……!!!!」 いつのまにか掴まれた両肩が壊れそうなくらい痛い。 「わた…私…」無意識にあとずさる智美。思わずそらした視線を伏せながらかすれた声をあげる。 「…ブラック…ごめんなさい。私…あなたの気持ちに応えられない…!!」 黒「智…!?!?」 智「…貴方は今、本当の気持ちをぶつけてくれた…だから私も、私の本当で答えなくちゃいけない!…これ以上偽り続ける事は、もうあなたへの冒涜でしかない…!!私…私は……!!」 喉につかえる言葉を、ねじり出すように吐く智美。 「テラと…結婚してるんです!!」 「…な………なんだって!?!?」 余りに突拍子もない発言に、頭が混乱して二の句がつげないブラック。 …しばらく互いに一言も発しないまま、ぽつり、ぽつりと夕立が始まり、やがて激しい雨音が二人を包む。 「………どっ…どういうことだよ!!ソレ……ッ!?」 …智美は何も答えない。顔を押さえてじっとうつむいたまま、急に咳き込み始める。「…どうした智美!?大丈…」 グブッ、と吐血。 黒「あ…あ…!!!?」 濡れた地面に急速に広がる血だまりを見てブラックが蒼白になる。 黒「…あッあ…わああ!!うわああああァァァァーーーーッッッッ!!!!!!!!」 「…ごめんなさい…ごめんなさい…ッ!!」 …遠ざかる意識の中で、智美はなおも繰り返し許しを乞うた。 豪雨の中を全速で疾走する3台のバイク。 サイドカーには、心ここにあらずのブラックを乗せて。 …あれから一同は急遽作戦を変更し、ローズの研究所に向かっていた。智美はキャンプに寝かせたままだ。ローズの毒が急速に進行し、もはや動かせない状態なのだ。 …ローズの毒は特別製だ。新陳代謝では分解されない為、スーツやカプセルでは効果がない。解毒法が分からないため運勢改変装 「必ず…必ず血清を手に入れてやる!待ってろ、智美!!」 他の三人のはやる気持ちに比べ、肝心のブラックはひどく消沈していた。「俺の…俺のせいだ…!!」 …俺が智美を追い詰めたりしたから、だから…! 自責の念にかられるその一方で、ひどく萎えてしまった自分が心の中に居た。身体に全く力が入らなかった。 「…何だよ…フラれたからって力が出ないのか?自分をフった相手は守れないってか!?」風防に顔を埋めて両の拳を弱々しく握る。 「俺の想いはそんなに安っぽいもんだったってのか…!?畜生ッ!!!!」 だん、とカウルを叩くブラック。 ローズは雨の森の中を、半狂乱になってミミを捜し回っていた。…なんとしても見付け出し、明日の儀式に間に合せねばならない! でなければ… 「…全て…水の泡だよッ!!」 明日の、この日のために全てはあったのだ! …私の夢、私の理想……!!こんな所で失ってなるものか!!!! ローズの研究所に着いてみると、そこは既に廃墟であった。 テ「…こ…これは一体何が…!?」 原「そんな事どうだっていい!血清は…血清は!?」棚やケースを片っ端から引っ繰り返すブルーと原。だが、血清はどこにもない! 「そんなバカな…きっとどこかにある筈だ!」 真っ青になって棚の薬品をかき捨てるブラック。 「これもちがう…!これも…これも…ッ!!」次々と薬瓶の割れる音が響く。…頭の芯がマヒしていくような感覚。まるで…悪夢の中のようだ。空虚な現実感、なのに底無しの不安と焦燥と恐怖…。 そして…とうとう血清は見つからなかった。 黒「…ウソだ…!そんな筈ない!!そんな…ッ!!」 原「ブラック…?」 もはやブラックは、手当たり次第に破壊しているだけだった。 「おい、やめろブラック!やめるんだ!!もう…」「はなせえぇぇ!!」 その時、テラがはたと気付く。 「そうか…ローズだ!奴自身が持ち歩いているのに違いない!」 ビクッ、とブラックの背中がゆれる。 「…奴は…どこに!?」ブルーの問いに、テラの顔がひきつった。 「…ここでなければ、おそらく教団本部に……!!」 原とブルーの表情も凍り付く。それはネオやマシーン、ザンベ達と一緒ということ。…つまり、絶望… 「…く!」壁を叩き、押し黙る三人。 …そんな中、ブラックの中で次第にある想いが沸き上がる。 黒「…なんで…」 原「…?」 青「ブラック?」 「なんでだよ…!」わなわなと震えるブラック。 なんでこんなコトになっているのか… どうして、智美がこんな目に… …なんで、どうして… 智美が…テラの…! 「テラ…」どす黒い色をした呟きが、ブラックの口から漏れだした。 黒「…なんで…あんたが智美の『夫』なんだ!?」 えっ、と驚いて振り向くブルーと原。それは二人が初めて聞くことだったからだ。そして反射的にテラの方を見る。テラも一瞬驚いたようだったが、その事を否定はしなかった。 黒「答えろ、テラァ!!」 想いもかけぬ緊迫に戸惑う原とブルー。テラがゆっくりと口を開く。 テ「…私の口から言うべき事は何もない…」 黒「…な……ッ!?ふざけるなぁッッ!!!!」 顔を真っ赤にして爆発するブラック。 「全ッ然!全然ワケ分かんねえよ!?何もわかんねえまま死にそうな目に巻き込まれて!ひたすら戦い続けて!ホワイトとかにメチャクチャ言われて!!…それでも智美のためだって思ったからずっと頑張って…なのに…智美がホワイトで!!そのうえ毒で死にかけて!!…その上…今度は…今度は何だ!?」 顔をくしゃくしゃに歪め、歯軋りをして俯いたのもほんの一瞬。 「アンタが智美の『夫』だと!?…『父親』ってのはウソだったのか!?それもなんにも説明なしか!?何も知らされなくて、ただ言われた通りロボットみたいに戦えってか!?冗談じゃねえ…ふざけるな!!!!」 がばっ、とテラに掴み掛かる。 「さあ言え!他には何を隠してるんだ!?!!答えろよ!!!!」 「ブラック、よせ!」と原とブルーで引き剥がす。 「………」無言で睨み続けるブラック。 小さく、テラがため息をつく。 テ「智美はね…、君に先代ブラックを重ねてしまっているんだよ」 黒「…また…『先代』…!?」 …その言葉は今までに何度となく聞かされてきた。 だが…なぜそれがこうも事あるごとに絡み付いてくるのだ!?一体…今の俺達と何の関係があるんだ!!!? テ「…君達が訝しがるのも無理はない…。しかしね、我々の知識では 『アロハマンは転生する』…とされているんだ」「な…・・転生!?」 テ「古文書によれば、アトランティス以前の文明で既に十数代現われていたらしい。そして事実…我々の知る『先代』と今の君が同じイデアを体現していることが観測できている」 …転生…では、『先代ブラック』もやはりこの自分だというのか!!!? テ「…君にとっては遥かな輪廻の彼方で記憶など無いだろうが…智美にとっては、たったひと月前の出来事なのだ。…犯したばかりの過ちなんだ。…忘れる事など…出来んのだ」 黒「…一体、一万年前に何が…」事の大きさを飲み込めないブラックに、しかしテラはゆっくりをかぶりをふる。 テ「…傷が癒えたら、きっと彼女は話してくれるだろう。だから…それまで待ってやってくれないか?…そして、支えてやってほしい」 「ちょ…」再び身を震わすブラック。 「なんなんだよ、それ!支えてやるのはあんただろ?あんた…智美の旦那なんだろ!?それがどうして!そんな事オレに頼めるんだよっ!?」 「…君が今こうしてここに生きているから…だから君にしかできんのだ」 「…なんだよ…わかんねェよ…!一体どういう意味なんだよ、それ!!」 溢れだす憤りを拳に溜め、視線を地面から捩じ上げるようにテラへと移す。 黒「オレは…オレは、あんたを認めない…!あんたが智美の夫だなんて認めないぞ!!絶対…認めてたまるかぁっ!!!!」 一人、雨の中へブラックは駆け出した。 「ちきしょう…畜生ーーーーっっっ!!!!!!!!」 豪雨の中を吠えながら、ただメチャクチャに走るブラック。 怒りと混乱のあまり、もはや自分が何に…誰に対して怒っているのかすらも分からなくなっていた。 …何も明かさぬテラに?智美を傷つけたローズに?? それとも…あまりに無力な自分に対して…!? 「……………!!」何度も何度も繰り返す思考のループを経て、ふと気が付くと、いつのまにか智美の待つキャンプへと帰って来ていた。 …まだ、他の三人は戻っていない。そんなに速く走ってきたのか、それとも彼等もやはりこの情況に打ちのめされているのか…。 滝のような雨の中を、ただ立ち尽くす事しか出来ないブラック。 智美は…今も苦しんでいる。なのに…なのに俺は何も出来ずに…!! 「……………………智美…」 「…はい」 半ば無意識に発した言葉に答えた、雨音に消されそうな小さな返事にハッと振り向くブラック。 …雨のカーテンの向こうには…白い、人影が立っていた。 黒「!智……いや、ホワイト!?」 …それは…紛れもない『アロハホワイト』であった! 黒「…そ、そんな馬鹿な…もう変身できる体じゃない筈なのに!?」 「これは…貴方がくれた、勇気なのよ」 黒「…ッ!?」 闇の中でも、仮面越しに彼女が微笑んだのが分かるブラック。 …これは…・・智美だ!ホワイトに変身しているにも関わらず、智美は智美であり続けようと抗い続けているのだ! 智「…今の私はあなたに何も出来ない…どうしていいかも分からない。だけどこの戦いを戦いぬいて、全てが終わった時ならあるいは………だから、せめて一緒に戦…」 うっ…と呻いてよろめく智美。げふ、と血を吐く。 黒「もういいよ智美…もういい!だから変身を解いてくれ!」 ブラックに支えられたまま、腕の中で変身を解く智美。 智「…ごめんね…結局、心配かけてばかりだね…」 …智美の頬を濡らし続けるのは、雨水だけだったのだろうか。 黒「………!!」 失いたくない…!!ブラックはただそれだけを、強く、強く願った。 (そうだ…今まで俺は、一体何を迷い続けていたんだろう…!?) …雨が止んだ。いや… …二人の周りを、黒く輝くフィールドが包み込んでいた。 黒「…守るよ…」 智「え…?」 …全てが分からぬコトばかり。 全てが許せぬコトばかり。 しかし、それでも… そうだとしても…! 自分が為すべき事はただ一つ!! 黒「…君を…守ってみせるよ!だから…何があっても俺は負けない!絶対に勝つ!ネオにも、ザンベにも…そして、自分 …日が暮れてもまだ豪雨は続いていた。 あれから洞窟に逃げのびたミミは、時の経つのも忘れて瀕死のホルスを癒し続けていた。だが…・・・治す力というのは難しい。衝動的に破壊するよりも、よほど精神力を消耗するのだ。…力を使い続けて疲労困ばいした所へ、ずぶ濡れになったローズが遂に探し当てて来た。 「とうとう見付けたよ…!小娘が手間ァ取らせやがって…覚悟おしィィ!!」 フラフラになりながらも、残り少ない力で尚も抗おうとするミミ。しかしローズは茨のムチに内蔵された異相発生装置でその力を反転し、封じ込めた!苦しみながら必死で抵抗するが、やがて力尽きるミミ。 駆け付けた部下にミミを回収させながら、背後で息も絶え絶えに弱々しく唸るホルスに気付いて口の端を歪めるローズ。 「ヒヒヒ…今まで散々邪魔をしてくれたね!」 ホルスを思い切り蹴り飛ばすローズ。ホルスは小さくきゃいん…と鳴いたきり動かなくなった。満面の笑みを浮かべるローズ。 (薬で小娘 …これで『女王』を見つけだせる。待ちに待った究極の力が蘇る!そうなれば…!! 「…私がいよいよ女王になる日が来るのよ!!フッ…フフフフ、アハハハハハハ…!!!!」狂った高笑いが洞窟にこだまする。 …その脇では、ホルスの小さな身体が静かに冷たくなっていった。 「イイ…イイよコレ!」 円卓一杯に広げられた儀式の仕様書を見て感嘆の声を上げるザンベ。急遽進められた企画にしてはよく出来ていた。ネオが倒したアロハマンを、そのまま生贄にする準備までしてある。特にお気にいりの『女王復活予想図』にうっとりと見惚れるザンベ。だが、その中に一つ足りないものが一つあることに気付く。 ザ「あれ…?ねえ、『大王』の復活は?」 マ「ああ、それね…。ないよ」 ザ「えっ?」 マチがパチンと指を鳴らした瞬間、四方から飛んできた屈強の男が操るムチによってザンベはたちまちがんじがらめにされた。 ザ「こっ…これは一体!?」 新手のプレイか!?との期待をマチが微塵に打ち砕く。 「フン…あんたはもう用済みさ!Sから与えられるだけの軟弱なMなど、我々支配者側にはもう要らないんだよ!!これからはSが全てを支配する…Sによる世界一元統治が始まるのさ!!」 突然の事態を俄には呑み込み切れないザンベ。 「…な…なぜさ?どうしてこんな仕打ちをするんだい!?」 「…フン、白々しい…身に覚えはないのかい!?」といわれてもキョトンとしているザンベに歯噛みし、追い打ちをかけるマチ。 「こいつを絶対孤独房 「そんな…そんな…!!!!マチ子ちゃーーーーーーーん!!!!!!」 ガシャーンと閉じられる鉄格子。深い地下の岩牢に一人とり残される。 「な…なぜ…なぜだァーーーーーっ!」岩窟に響き渡るザンベの叫び声は、こだますれども地上に届くことはなかった。 「おおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーっっっっっ!!!!!!!!」 * * 決戦の日の朝は来た。昨日とは一転、空は隅々まで晴れ渡っている。 ネオの指定した決闘の刻まであと数時間。モービルカノンの最終チェックを行なっていたテラが、ふと背後の気配に気付く。 「……テラ…」 そこには、昨日と打って変わった、静かな表情のブラックが居た。 「………」無言で作業を続けるテラの隣に、腰を下ろすブラック。 黒「…正直言って…」ゆっくりと、しかしやや強い語調で話し出す。 「納得…できた訳じゃない。でも…!」ぐっ、と力のこもった視線で青空を見る。「…今日勝たなきゃ…どのみち明日はないから!そしたら…ホントに何も納得できないまま終わっちゃうから!!」 「…そうだな…」作業を続けながら短く呟くテラ。 「あの…聞かせてくれませんか」抜けわたるような青空と、昨日の雨で光り輝く大地の狭間でブラックが問う。 「先代の…古代のアトランティスで戦ってたっていう、・・オレのこと。あなたが…あなた達が一体、どんな・・オレを…・・俺達を見ていたのか」 テ「私の見ていた…・・君達、かね…?」 黒「…話せるだけでいいんです。あなたも…智美も、そしてグルザー達も…皆どこかで『・・先代』として・・俺達を見てる。なのに肝心の俺達だけが全く何も知らないまま…」ふ、と淋しい笑顔を洩らすブラック。 黒「正直…見に憶えのない因縁でぶつかってくる相手と『決戦』するっていうのも、結構…しんどいもんですよ」 ふっ…とテラもかすかに笑った。「それは…確かにそうだろうなあ」 原「あれ…?二人でどうしたんです?」 青「何なに?何の話?」 昨日あれだけぶつかり合った二人が笑っているのを見て、原とブルーも寄ってくる。テラは頷き…そしてとつとつと話を始めた。 「『英雄』…一言で言うなら、まさに君達はそれだった」 建国神話に謳われた、まさしく神にも等しき存在!それが世界の危機のまさにその時に蘇り、誰にも抗し得なかった敵と戦い、弱き人々を守り続けた。勇者と…英雄と人が呼ぶのは当然なのに、彼らは少しも威張る事無くいつでも自然体のまま、別け隔てなく人々を慈しみ、それゆえ人々もまた、彼らを慕ったのだ。 青「な、なんか…やっぱり自分自身じゃないみたいだな」 照れて良いものなのか、どうにも歯痒い気分の所へテラが続ける。 テ「いやいや、そんな事はないさ。当時の君は今と全く変わらず、片っ端から物を忘れて屁を垂れ流していたよ」 青「…へ!?」 テ「…それからレッドはやっぱり寒〜いギャグを量産してたし…ブラック、君は何かと淫法ばかり使っていたな」 原「は…」 黒「…何ィィ!?」 なんだか俄に怪しくなってきた雲行きに、アロハ三人の目が点になる。 テ「…しかし何しろ『英雄』だからな。みんな心底心酔していて、それぞれ弟子の集団が居て…何かするたび拍手喝采、ま…あれも今から思えば一種宗教じみた所もあったなぁ」 原青黒「…は、はァ…」 …つまりやってる事は同じなのに、人々は・・それを称賛してた…という訳だ。殆ど村八分的人生の今から見れば、なんと羨ましい事であろうか。原「て事は…憧れのギャグ大爆笑!?」 青「…でも内容は同じなんだろ」 黒「…なんか自分といえどちょっ…と許せんような気がしてきたぞ!?」 テ「だが…死んだ」 ぴた…と無口になる三人。 テ「…・・彼らはまさに文字通り、『尊敬されるに足る』代価を自分の命で贖い、示し続けた…!そして最後に…本当に……」 原青黒「………………………………」 テ「…・・君らは…死ぬな」静かな、しかし強い言葉でテラは続けた。 「当時の・・彼らは石柱から復活した時、既に生命力を殆ど消耗仕切っていた。だが…今の君達はそうじゃない。まだ死ぬ必然性なんて全然…ない」 …テラの両目に光が宿る。それは強く、儚く、優しく瞳の中でゆれる。「確かにこれは…決死の覚悟の戦いだ。…だが『死ぬ気』でいてしまったら、全てはそこで終わりだ。君達は、生きるためにこそ戦わなければいけない!」 原青黒「…!!」 「・・彼らは…」空を仰ぎ見て、テラが呟く。 テ「・・・・あの三人は、還ってこられなかった。それは彼らが『英雄』だったから…、それゆえに死を『決意して』しまっていたからなのではないかと…そしてそれをさせたのは、彼らを『英雄』として崇めた・・我々だったのではなかったかと…今では、そう考えてしまうことがあるんだ」 …ブラックを裏切ってしまった智美の哀しみを知った今では。 心砕かれるほど苦しみぬいた智美の姿を見た今では…! テ「…だから今生の・・君達が、『英雄』だとか『勇者』などではない事は、実はいいことなのかも知れない。下手に『英雄』となってしまえば…」 「…それでも…」決意を秘めて、ブラックが言う。 黒「それでも、オレは…智美にとっての『英雄』でいたい!」 テ「ブラック…」 黒「…だからって死ぬ気なんてこれっぽっちもない。生き残って…もう一度智美の笑顔を見たいんだ!だから…」 その横で、原とブルーも一緒に頷く。 原青「…だから、俺達は絶対死なない!!」 一時間後、ひっそりとキャンプを発つ一同。モービルカノンで、一路決闘の場所へと走る。 …ハッキリ言って、これは勝ち目のない戦いだ。 ネオとの決闘だけのことではない。その先に迫る『女王』の復活。残るグルザー最強の二人、ヨロイとマシーン。ローズの姦計。…そして全ての中心、未だ図り知れぬ力を秘めるザンベとマチ…! 情況は絶望的だった。が…それでも勝たなければ、『巨神』が世界を終わらせてしまうのだ…! もう、後戻りは出来ない… …・・・帰り道のない旅が、今、始まる。 |
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