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ALOHAMAN IN ETERNAL SUMMER
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第83話
決戦アロハマンの墓場
〜私、脱いでもすごいんです〜

1989年10月21日放映


 かねてから建設の進んでいた収容人数7万人のSM円形大闘技場(コロシアム)を満席にしたSM教徒達は、これから始まろうとする一大イベントを今や遅しと待ち構えていた。
 荘厳な雰囲気に酔い痴れる大観衆を前に、マチが天を仰いで宣言する。
「…遂にこの刻が来た…!!もうすぐ我らの悲願、至高の大偶像『女王』が復活する!!それは即ち新世界…SM新世紀の到来を意味するのだ!!!!
『マーチ!マーチ!マーチ!マーチ!!
 盛り上がる信者達の大歓声に両手を広げて答えるマチ。その横からマシーンが耳打ちする。
「…下僕の星はあと62分で直上にまいります」
「ご苦労…」視線を変えぬままマチが答える。
 …『下僕の星』とは、太古にアトランティス文明が打ち上げた周回軌道衛星だ。貴重なオリハルコン動力炉を備え、若干ながらフィールドも発生しているために隠蔽性・持続耐久性共に極めて高く、今に至るまで発見される事無く活動し続けている。
 だがその一万年の間に、『女王』の所在は完全に失われていた。その全地球規模の捜索のためにはこの『下僕の星』が不可欠なのである。
 指輪や巨神の探知には膨大な量のSMエネルギーが要る。紅の指輪を見つける時、牛久大仏前でSM儀式を行なったのはそのためだ。この時は予め候補地が絞れていたし、指輪のオリハルコンは力に呼応するので探知は比較的容易だった。
 だがその指輪(エネルギー源)を持たない状態の巨神の反応は極めて微弱だ。まして全世界中から探すとなれば、その必要エネルギー量は計り知れない。そしてそれこそ、ザンベ達が巨大なSM教団を造り上げた理由だった。
 …全ては、最初から『巨神』の為になされていた事だったのだ!
 観客の次第に高まるボルテージから発するSMの波動が、祭壇に向かって集められ、どんどん蓄積されている。
 …今…遂に、必要なもの全てが揃った。

「『女王』か…実に、一万年ぶりということになるのだな…」
 柄にもなく、しみじみと思いを馳せるマシーン。
 …あの時…『アトランティスSM大戦』の終決後、奇跡的に機能停止を免れた私は復興で手薄になっていた王室の保管庫から指輪を奪取した。
 ザンベ・マチ復活のためパンドラシステムを起動したまではよかったのだが、制御出来ずに暴走、完全な計画失敗を悟った我々は未来への脱出を余儀なくされた。…私は紅の指輪を持って、地殻変動の混乱に乗じて接収されていた『大王』を乗っ取り、自ら地殻の割れ目に呑み込まれてそのまま眠りに就いた。本来は青緑の指輪で動かすべき物なのでそれが精一杯だったのだ。
 …まさか一万年の間にマグマの中をこんな極東まで運ばれ、地上に表出するとは思わなかったが…
 …そして、他の幹部達もそれぞれ眠りに付いた。青緑の指輪は…
「はて…」彼にしては珍しく一瞬検索に手間取るが、すぐに該当データを探り当てる。「…そうだ…確かに託したのだったな…?」
 グルザーには多い時では上級から下級まで合わせて59人もの幹部がいた。その中のbT9、ひたすら寡黙でやたらと下顎部の長い、基地の清掃部長…!
 …大戦終決間際に辛うじてザンベの封印された青緑の指輪を奪取し、その後数ヵ月間に渡って先代ブラックと演じた満身創痍の追撃戦。その最後に瓦礫の下敷きになり、機能停止を覚悟したあの時…たまたまそこに居合わせたに、一縷の望み…と託したのだった(その後からくも一命をとりとめ、今度は紅の指輪を奪ってパンドラシステムに向かったのだ)。
 …それがどういう経緯で今、この時代にザンベを蘇らせる事になったのかは定かではない。…まさかもこの時代に…?
 …そういえば、団員58…かつてザンベとマチを生み出した元凶、無闇に陽気な眼鏡のドクトルはあの後どうしたのだろうか…?
 …しかしまあ、いくら再起を期していたとはいえ、よもや一万年もの後に技師長クランク(テラがすりかわっていた)と磁石番長(…本当は復活したのに合流前に倒されたのをマシーンは知らない)を除く残存幹部全てが揃って復活できたとは…まさしく僥倖という他はない。それを思うと、機械の我が身ながら感無量ですらある。
 が…今やその残りもほんの僅かとなってしまった。彼らを次々と葬ったのは、他でもない…
部下「…団長閣下、いましがた招待客(ゲスト)が到着しました!」
「…………そうか…」マシーンの双眸が冷たく光る。
 …そう、それはアロハマン…ッ!!
「…見せてもらおう、貴様らの…『心』の力の真価とやらを!!

『コ・ロ・セ!!コ・ロ・セ!!
 闘技場に足を踏み入れるや、SM教徒数万人の大合唱に気圧されるアロハマン。アウェイで戦う選手の気持ちはかくの如きか…!?と戦慄する。
 俄然重みを増す足取りの先…闘技場の中央には、見覚えのある3つのモニュメントがそびえていた。
「…!!あ、あれは…・・・あの時の十字架か!?
 …かつて三人がグルザーに捕えられ、智美を呼び出す人質としてはりつけられた十字架がここに…!!
「ま…まさかここはあの採石場…!?」 「なっ…奴ら…半月も経たずにこんな大闘技場(でかいモン)造っちまったってのか!?
 それほど強大な力を持つまでに成長したSM教団に、改めて底知れぬ恐怖を感じ身震いするアロハマン。
『殺せ!殺せ!殺せ!殺せ!!
 急速に観客のテンションが上がる中、マチが再び祭壇に上がって更に場を盛り上げる。
『うおおおおおおおおおおッッッ!!!!!!!!
 …正直に言って、元々のアロハマンの社会知的認知度・関心度は殆どゼロに近い。だが、教団による指名手配と、影の実行部隊といわれるグルザー軍団の着実な減少…。その原因となった連中として、未確認の噂ながらも、今や全てのSMの仇敵として悪名を馳せていたのだ。360度から津波の如くおしよせる怒号に、完全に呑まれてしまうアロハマン。
 だが…
(……黒…にいちゃん……) 「!!!?
 場内を埋め尽くす罵声の中に、かぼそい一筋の声を確かに聞いたブラック。「ミ…ミミちゃん!?どこだッ!?
 …とその時、祭壇中央からせり上がってくる新たな十字架。そこには…イバラでがんじがらめにされたミミがはりつけられていた!
原青黒「な…!!!?
 既に高まる切った観客のボルテージが、ひしめくSMの波動が、全身に繋がれたチューブを伝ってミミの身体に容赦なく注ぎ込まれる!!
「きゃあああああああァァァァァァッッッ!!!!!!!!!!
「…なんて事……ッ!!!?
 来賓席という名の檻の中で、思わず悲痛の声を上げる智美。
「バカな…まさか指輪を取り出していないのか!?
 ミミの反応を測定しようとするが…
「くそ…ッ!余りに観客のSMノイズが多すぎてまともに計測できん!!
「…蓄積器(コンデンサー)代わりにしているのかもしれないわ…!SMエネルギーをそのまま指輪にためるより、人間の体を介した方が遥かに容量が大きい…」
「た…確かに…だがそれではあの子の精神が保たん!普通の人間では心が粉々に砕かれるぞ!!
 …二人は知らない。ミミが今や完全に指輪と同化し、分離できなくなっていることを。そしてそのため、常人よりは遥かに高い耐性を持っていることを。…だが、それでも数万人分のSMエネルギーの奔流は、ミミの精神致死量を遥かに超えてしまっていた。それでも千切れてしまいそうな意識を必死に掻き集めて言葉を紡ぐミミ。 
「信じ…て…!から…!」
「黙りな!」とローズが電撃ボタンを押す!!『きゃあああああああ!』
 安全な操作室でワインを傾けながら目を細めるローズ。
「お前はそこで奴らが嬲り殺されるのを見届けるんだよ!海より深い絶望…そして虚無!フフフ…極上のオードブルだねえ!!…そして砕けた心が砂となる頃には、感情も意志も持たない肉のオリハルコンが出来上がるってわけさ!!
「……………ッッ!!!!!!
 全身を震わせ、怒りの涙を流すアロハ三人。
「…う…うおおおおおおおおおおおおおおあああッッッ!!!!!!!!!!
 ブラックの咆哮が教徒の殺せコールを圧倒する!!思わず息を呑む観客。
「…てめえら…絶対許さんぞ!!今…助けてやるからな、ミミちゃん…!!こんなもの、全部ブッ壊してやる!!!!
「…寝言は寝てから言って欲しいものだな…!」 「ッ!!!?
 ネオ登場!とたんに歓声が戻る!!
「…ネオ…!」 
「…だが、逃げもせずこの敵地に赴いて来た事は評価しよう」 
「その無謀なる勇気に敬意を表して…」
「あの十字架の元に葬ってやる!!」 原青黒「……………!!!!
 遂に三度目の対決を迎えるアロハマンとネオアロハマン。
 …こんな日がくるなど、ついこの間までは想像もつかない事だった。
 万感の思いを込めて、今、対峙する二組の常夏戦隊。
 マチと共に貴賓席で見守るマシーンとヨロイ。
 そして来賓席には固唾を飲んで見守るしか出来ないテラと智美…
 吹き荒ぶ風が巻き上げた一枚の紙が、両者の間に流れて互いの視界を遮った…その、一瞬。
「うおおおお!砕玉!!ブゥーーーメランッッ!!!!
「超劫火!!()ルファイヤアァァーーーーッッ!!!!!!
 原とブルーが見た事のない神器を放つ!!!!
!?」 「これは…ッ!!」驚愕する間も与えず大爆発!!
 …静まり返る会場。爆煙の中には巨大なクレーターがのぞき、その向こうには…かすかなダメージを受けたネオが、神妙な面持ちで並び立つ。
「…なるほど…。砕玉剣の光刃を超能力で・・・くの字に曲げ、ブーメランとして切り離す事で射程を飛躍的に伸ばしたか…!」 
「…片や大量の腸内ガスを肛門からチューブで導き、手製の筒から打ち出しつつ、点火…燃え盛る火球はやがて空気を取り込み気化爆弾として半径十数b内を爆砕する…、か」
 爆煙が晴れ上がるまでの間に全てを言い尽すネオ。
「へっ、流石だな…一度見ただけでそこまで解析済みか」
「こちとら死ぬ思いで編み出したってのによ…!!
 …しかし、さすがにブルーの技が智美に『(はな)()バズーカ』と名付けられてしまっている事までは解析出来なかったようだ。
「大した威力だ…正直、見違えたよ。これで…思う存分本気を出せる!!」 ぶんっ、と霞むネオの輪郭。次の瞬間原とブルーの体が吹っ飛んだ!辛うじて急所はズラしたが、予想以上に速いネオの攻撃に、完全に押され気味になる三人。その中で、一人ブラックだけは開放拳により無傷で持ちこたえていた。
「なかなか粘るな、ブラック…!だが、どうして神器を使わない?」
「…まさか…使えないのか!?それではこっちも本気が……何ッ!?
 とっさに避けたあとの地面が吹っ飛ぶ! 「こ、この攻撃力は!?
「…見縊るなよ…神器などなくても勝つ!そして…智美を守るッ!!
「…!!」ますます男闘呼回路の反応を強めるネオ。
「面白い…ならば容赦はしないぞ!!
 その後も信じがたいパワーを発揮し、素手でネオと拮抗するブラック!
「ぐゥッ!!これが『心』の…魂の力なのか!?」 「ああ…そうだ!!
「判らん…!一体どこからこれだけのエネルギーが生まれるんだ!?
「まだ判らないのか!?今俺の心を燃やすものこそ、人の生きる力の源…」 キッと振り向くと、スネ毛丸出しで真顔で言い放つ!
「『愛』だ〜ッッ!!
「ぎゃー!!」 「どっしぇー!!
 思わず脱力し、攻撃を食らってしまうブルーと原!
 …その様子を見ていたテラは、己を納得させるように呟く。
(そう…あれが『心』!あまりに脆く、安定せず、予想できず、制御しきれない!そんなあてにならないものに全てを委ねる事の危うさ…)
 その横で、ホワイトになる事が出来ずに戦いを見守る智美。
テ(…それは貴女も納得していた筈だ!なのに…何故!どうして男闘呼回路なんて物を創ったんですか、先輩!?
 …『男闘呼回路』…それは智美の母が事故死する直前に研究していた物である。元々はテラと同じ機械派であった彼女だが、晩年には『心』のメカニズムを研究し、人工魂の開発を進めていた。オリハルコンと組み合わせれば、或いは伝説のアロハマン以上のパワーを得られるかもしれない…!その試作品が成長型人工魂システム『男闘呼回路』であった。
 そして今や存分に成長した男闘呼回路は計算以上の力を発揮し、彼女の夢の通りに本家アロハマンたちを圧倒している!
 …決闘前、テラはアロハマンにこんなアドバイスをした。
『基本身体能力はアンドロイドの彼らの方が数段上だ。マトモに戦っては到底勝ち目はない…。撹乱しろ!奴らの平常心を掻き乱せ!『力』を発揮させるな!…感情任せの攻撃より、冷静な作戦が勝るのだ!!
 息をするのも忘れて戦いに見入るテラが知らず知らずに唇を噛む。
(そうだ…理性の方が強いんだ!理性こそ私が求める『あるべき姿』!
…少なくとも、人心が荒廃しきっていたあのアトランティスではそうだった!だからこそ私は智美に『理性』のイデアの人核を移植したのだ。…それはある意味『心』の否定でもある。それが…おそらく人格分裂の原因の一つになってしまった。…それでも、これは正しかった事の筈なんだ!でなければ智美をホワイトにしたのは間違いだった事になる…それは、それだけは絶対にあってはならない事なんだ!!
 …目の前では息もつかせぬ攻防が続く。そして…確かに砕玉系の効果が高い!ブルーとブラックの援護のもと、連続攻撃を仕掛ける原!
「…!?レッド…今の君はなにか嬉しそうだな?」 「…!」
 マスクで隠れた口元の苦い微笑を見抜かれてドキッとする原。
「そりゃ…確かに嬉しくはあるさ。砕玉剣が通じるって事は、お前らがオレのギャグに少しは反応してるって事だからな…」
 …ネオと初めて会った頃、彼等がギャグを全く認識しない『空反応』状態だった事を、ひどく懐かしい事のように思い出す。
「…だが…それより遥かに、オレは哀しい!!」 「何…!!!?
 その言葉の意味を測りかねながらも何故か心奪われるネオ。
「…お前らとこうして戦わなきゃならない事が……!」
 思わず拳をきつく握りしめる。
「…お前等を!この手で!葬らなけりゃならないって事がだ!!
 …それが、微笑に混じる苦さの意味だった。ばっ、と天を振り仰ぐ原。
「一気にいくぞ…!来ォーいッ!!カァーノォーーーーンッッ!!!!!!
 バッキィィン、と指を鳴らすと同時に天空から飛来する一つの影!
 ドガァァン、と地響きを立て着地するバスターカノン!! 
!?」と目を剥くネオに、ブルーの屁ルファイヤーが炸裂!大爆発!!
 避け損ねたネオの身体が宙に舞った!!
「いくぞ!!このまま一気にスマッシャーだ!!!!」「応!!
 だがその瞬間、爆煙の上方からネオの声がした!!
「…バスターカノン、カムヒア!」 「…何ッ!?
 声に反応して勝手に自走して行くカノン!!その上にストン…と降り立つネオの三つの影!一瞬、訳が分からず呆然とするアロハ3人。
「…何をそんなに驚く?このカノンは元々我々の物…。君達も、カノンで倒されるなら本望だろう!?」 「あ…ああ…っ!!
「1号装填!エナジーMAX!!目標『アロハマン』…シュートォ!!!!
 目も眩まんばかりの閃光!そして直撃!!ギリギリの所で急所は外したが、立ち上がる間もなく第2、第3弾が撃ち込まれる!アンドロイドの身体は連続発射にも耐え得るのだ!!
「う、うわあああァァァッッ!!!!!!
 わずか数aの差で急所を回避し続けながらみるみるボロボロになってゆくアロハマン。もはや立ち上がる力すらろくに残っていない。
「くそっ…オレたちのカノンがあれば…ッ!」
「カノンが…ハイパーハラコフカノンが欲しい!!
「奴らに勝つため…!智美を…正義を守るために!!
 その瞬間、ずひゅぅぅん…と大地に光る現れる転送サークル。
「こ、これは…!?」騒めく観客。目を見張るアロハ一同の耳にどこからともなく声が響く!
「諸君の心の叫び、確かに聞いた…再び力を授けよう!」
 …なんと…ハイパーハラコフカノンが転送されて来た!今この瞬間、遂に解雇が撤回されたのだ!!
「…ちょ…長官…!?」 「なんかすっげー久しぶり!」
 常夏戦隊、名実共に完全復活!!
「バカな…『転送』だと!?」マシーンやマチ、そしてテラまでもがアトランティスにも存在しなかった技術に驚愕する。
「これが…『長官』……!!
 初めて接する『長官』の片鱗に、呆然となる智美。
「何っ…長官!?…どこだ!?俺には何も聞こえんぞ!?
 その場でその『声』を聞いたのはアロハ三人と智美、そして…おそらくは呆然とするミミと、天空を睨むマチだけであったろう。一度は長官に雇用されたネオまでもが、戸惑うように辺りを見回している。
 それは…既に(ネオ)らが『アロハマン』ではない事を意味した!!
「さあ、ゆけっ!正義を守れ、アロハマン!!
原青黒「了解!!」二人のブレスを受け取る原!
「三重装…!!アロハディープパープル!!!!
「ハイパーハラコフカノン、発射準備完了!!
「面白い…一度雌雄を決してみたいと思っていたんだよ!!
 不敵に笑うネオ1号。真っ向正面に対峙する二つのカノン!!
「いくぜ!!アロハスマッシャー、発射ァァ!!!!
「来い!!バスターカノン…シュートォォッ!!!!
 激突する二つの弾丸!!閃光!!爆炎!!天地を揺るがす衝撃波!!!!
「うおあぁぁ〜〜〜〜〜っ!!!!!?
 …爆発が収まると、二人とも地面に転がっている…相討ちだ!!
 しかしふらつきながらなおも立ち上がる一号!
「馬鹿な…!今の奴らにカノンは致命傷の筈だぞ!?
「…真空だわ…」 「…何!?
「今のネオは成長した男闘呼回路によって限界を超えた速度を得ているわ。一号は飛翔しながら数百発の超音速拳を繰りだして、衝撃波と真空の壁を作り出していたのよ。このままでは、生身の方が分が悪い…!」「く…!!
 しかし、それでも…アロハマンは勝たねばならない!
「くそっ…!一度でダメなら…もう一度だ!!
 しかし満身創痍で立ち上がる彼に向かって、既に再装填を完了したバスターカノンが走り込んでいた!
「なっ…!?」…よけられない!この間合いでは、原は吹き飛ばされる!!
「バスターカノン!シュートォッッ!!!!
「うっ、うわあああああ!!」もうダメだ!と観念する原!!
 …しかし……何故か衝撃は来ない。おそるおそる目を上げると、そこには…ブラックが立ちはだかって一号(たま)を食い止めていた!
「ブ、ブラック!?しかしまさかいくらHフィールドでもそんな…」ふと下に目をやると、ブーツ、靴下、ズボンがごっそり脱ぎ捨ててあった。
「まさか…三枚開放拳!?」彼は立ち裸っていた!!
 その恥ずかしい姿により通常の3倍のHフィールドが発生し、アロハスマッシャーとも相討ちしたバスターカノンと拮抗している!
 …しかし…これでも必死で押し止めるのが精一杯。跳ね返ってくるダメージに絶え切れず、すでに体中の穴という穴から血を吹き出している。
「まだか…っ、これならどうだッ!?」と遂にパンツに手を!
「や…やめろブラック!!智美が向こうで見ているんだぞ!!
 一瞬動きを止めるブラック。噛み締めた唇から血を流す。「くッ…!!
 …観客なんて関係ない!ミミちゃんだって…まあ、我慢は出来る。しかし…智美は…!智美だけは……!!!! 唇を噛み、身を捩るブラック。
「恥ずかしいよ!!恥ずかしくて死にそうだよ!!ああ…でも…」
 一瞬の躊躇。しかし彼にはとても永い時間に思えた。
「おおおァァ!四枚…開放拳ッ!!!!」ブラックの下半身は革命された!!
 一気に強大化するHフィールド!遂にネオ一号をカノンごと吹き飛ばした!!ボロボロになるネオ3人!…力尽き、崩れ落ちそうになるブラックの下半身をタオルで隠してやるブルー。
「バ、バカな…未完成とはいえ、『魂』を得た我々を…ッ!!!?
「…それは、貴様らの魂がニセモノだからだ…!」
 貴賓席でピクリ、と身じろぎするマシーン。
「…しょせん機械は魂を宿せない、と…?」
「違う!機械だとかコピーだとか、そんな事は関係ない!!ただ…貴様らは悪の手先に成り果てた!」
「………!?」呆気に取られて見守るブルーとブラック。
 コイツこんなにカッコよかったっけ…?
「…心が!魂が真に光り輝く時は!!愛と正義を照らす時だけだッ!!
 ガガーン、とショックの一同!
「リーダー…!」 「へっ…おいしいトコ持っていきやがって!!
 バチ、バチチッ、とショートし始めるネオ3人の男闘呼回路。
「愛…正義…あい……ア…、イ………」
「…何をしている…!?貴様らは私の手足だ!道具だ!私の命令に従わんかぁっ!!」 「…ガ…アァッ!!
 マシーンに改造されたプログラムと男闘呼回路の狭間で苦しむネオ!!
「ネオ!頑張れ!心を取り戻すんだ!!
「アアアアアアアアアアアアアアアッ!!!!
「ネ、ネオ…ッ!!」 「ネオーーーーーーッッ!!!!
「ネあッ、屁が!!!?
 皆があっと思う間もなく、今朝バズーカ用に食った芋が今頃効いてブルーの爆屁が漏出した(さっきまでのは素の状態だったのだ)!!
 一瞬のうちに透明度30aの高密屁雲で埋め尽くされる大闘技場!観客席の縁ギリギリまで上がってきて大パニックに!バトルフィールドは完全に屁で覆い尽くされ、上からは全く様子が分からなくなった。
「…く…黒にいちゃん…!」
 ようやく屁煙が晴れると、そこには…
テ智ミ帝マ!!!?
 おおー!と大歓声が巻き起こる!
 …そこではネオ3人が、予告どおりアロハマンを磔にしていたのだ!!
「フハハハ…そうか、倒したか!よくやった!!」と得意満面で戦闘員を引きつれ闘技場に降りるマシーンと、影のように付き従うヨロイ。
「勝負は付いた…これよりプログラムはアロハマンの公開虐殺へと移行する!!来たるべき『女王』への生贄だ!!!!
 うおおおおおおおお、と大闘技場を揺るがす歓喜の叫び。
「…くそっ…これまでか!」唇を噛むテラを智美がつつく。
「見て…あのネオが着けている武器!あれは…」
「何!?すると…!」
 …その時一陣の逆風で屁雲が舞い戻り、マシーン達を横殴りにした!
「ぶわっ!?
 すかさずネオ二号がこれに点火!大爆発で戦闘員全滅!!さすがにダメージを受けてひるむマシーンに飛びかかり、渾身の力をこめて光刃を振り下ろすネオ一号!!
「これで終わりだぁッ!」
 固く激しい音が爆煙の中に鳴り響く!
 …だが、煙が晴れ上がってみると…光刃はヨロイ武士の抜き付けた刀によって受け止められていた!
「バカな!砕玉剣をどうやって…!?
 思わず身を引いた一号のマスクが突然真一文字に割れ、地面に転がる。その素顔は… 
「…やはりおぬしだったか、レッド」
 …そう…あの屁雲の中で三人はネオと入れ替わっていたのだ!!
「くっ…!」唯一無二の勝機を失い、身動きが取れなくなる三人。
「……」十字架上のネオを一瞥するマシーン。…ネオは完全に機能を停止していた。男闘呼回路による度重なる機体への限界以上の負荷に加え、今迄の戦いで累積したダメージ、屁粒子の目詰まり、そして爆発の影響などによって動作不良を起こしたのだろう。
 …だがこれが本当に単なる故障なのか、それとも彼らの意志だったのかは誰にも分からない。
 同じようにネオを来賓席から見つめるテラ。
 …確かに男闘呼回(こころ)路によって我々は救われたのかもしれない。が…同時に(ネオ)らにとってそれは破滅だった。
「見ろ…!これを見ろ!だから言ったんだ、心は脆いと…!!
 握り締めた拳を卓に打ち付けながら、まるで割り切れずにいる自分に言い聞かせるかのように呟く。
「フン…結局、所詮はガラクタだったか」というマシーンの言葉に落胆の影を聞くのは、気のせいか。「つまらん…」と踵を返すマシーン。
「ま、待て!マシ…ッ!?
 突如心臓を鷲掴みされたかのように声が出なくなる原。
 マシーンの歩く先に……マチがいる。
 何時の間にか、闘技場に降りて来ていたのだ。
「…マチ様、時間でございます」頷くマチ。
「く………ぐ!?」あれほど倒そうとしていたマチがすぐ目の前に立っているのに、その威圧感だけで指一本動かせなくなってしまう原。
 以前よりは自分も格段に強くなっている筈なのに…いや、だからこそマチの強さがより一層分かるようになってしまっていた!
 かつてシバかれ、血の海に沈んだ忌まわしき記憶が蘇る。…磔にされる前から、彼の心はとうに十字架(トラウマ)に釘打たれていた。脂汗がだらだら流れる原の頬をついと撫で、鷹揚な笑みを浮かべるマチ。
「…よく頑張ったね…。なかなか面白い余興だったわ」
 警戒心のカケラも見せずにマントを翻し、観客席に向かって宣言する。
「予定といささか異なるが…このまま女王探知の儀式に移行する!!
 どっ、と沸き返る大円形闘技(コロシアム)場。
「く…、くそ…っ!」全く歯牙にもかけぬ扱いに、半ば金縛り状態の原も最後の意地を振り絞って必死にマチへと襲いかかる!!
「さッ…させるかぁーっ!!
 …マチは、振り返りさえもしなかった。
「〜〜ッ!?!?!?!?!?」突如原の身体が舞い上がり、空中に浮いたままみるみるボロボロになっていく!
「こッ…これは!?」 「…S…フィールド……ッ!!!!
 そう…原の身体はマチの鞭によって超高速でシバかれ続けているのだ。しかも、依然マチは振り返らぬまま…!
 これが、本当に一本の鞭で行なっている事なのか…?何も見えず…何が起こったのかも分からぬまま地面に落ちた時、既に原の全身は血塗れだった。マチ自らの神技の披露にいやました観客のボルテージは、これまでに更に数倍するエネルギーを産成した。
「は、原…っ!!」駆け付けようとする二人に、ちゃきん、と一振りの太刀が突き付けられる。
「儀式を邪魔だてするなら…次は拙者がお相手仕る」 黒青「く…!」
 三人が黙って見ているしかないままマチが祭壇上のミミに近付き、その小さな身体に蓄積された膨大なSMエネルギーをさらに励起させた!!
「いやああああああああ!!!!!!!!!!
「アハハハ!…いーい響きだねえ!」と悲鳴にうっとりするマチ。
「く…くそおおおおおおおおお!!!!!!
 何も出来ないまま、ミミの中で極限まで内圧を高めたエネルギーは遂に逃げ場を求め、レーザーの如く光の柱となって天空に立ち昇った!!
 そして・・それはコンマ数秒後、遥か数千`上空の『下僕の星』受光部に命中する!!
 莫大な量のSMエネルギーは機体上部の大容量コンデンサーに一時的に貯えられ、すぐさま単位相干渉波として俯角全方位に拡散放射された。 血の色にも似たマゼンダの光条があまねく全地上に降り注ぐ。同時に膨大な量のセンシングデータがマシーンの処理脳に転送され始めた。今世界中にあるどのコンピュータよりも速い計算能力を持つマシーンでも、全地上から返ってくる干渉波の分析にはフル稼働で数分を要する。
「ム……ウ……ッ!」
 やがてエリアの絞り込みに入ると進捗情況がオーロラビジョンに映され始めた。次々に範囲特定され拡大してゆくマップに観客は息を呑み、それはやがて驚きに変わる。アジア、日本列島、関東平野…!そして最終的に確定したポイントは、この会場から10キロと離れていない千波湖の湖底十数bであった!一瞬の静寂はすぐさま歓喜の絶叫へと変わった!!
 マチはマントをひるがえして祭壇の上から高らかに宣言した。
「…時は来たれり!かの約束の地にて女王復活の儀をとり行なう!!
 もはや留まるところを知らぬ大歓声。バタバタバタ、と空を埋め尽くす一面の教徒移動用のヘリ!信者は怒涛のごとく闘技場から流れ出て、千波湖へと向かい始める。
「くそ…くそッ…!!」 「このままじゃ『女王』が…!!!!
 ギリと噛み締めた唇に血が滲む。
「…考えろ…何かあるハズだ…!!何か…」
 もはや奇跡でも起こらぬ限り覆る事のないこの状況下で、なおも絶望することを拒み続けるテラの苦悶の表情を、場内から得意げに見上げるマシーン。
「これでチェックメイトだ、テラ」
「…勝負は……最後の瞬間まで、わからんさ」
「ハハハハハ!!」高笑いするマシーン。ばさっ、とマントを翻し、闘技場中央に降りるひときわ大型のヘリに歩み寄る。
「ヨロイよ、先にゆく…あとは頼むぞ!!
 マチと共にヘリに乗り込むマシーン。
 何も出来ないまま見送る以外にないアロハマン。
 飛び立つヘリのライトを背に、笑いを抑えきれないヨロイ。
「待たせたな…さあ、始めようではないか…!」
 …夕刻が闘技場内に一足早い夕闇をもたらす。一斉に点灯された照明が、最終決戦の第二幕を切って落とした。


 
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