TOP閲覧順路第3部目次 > 各話
 
ALOHAMAN IN ETERNAL SUMMER
前へ  ◇  次へ

第84話
魔王ザンベ!最後の逆襲
〜ああっいい!は運命、運命は死〜

1989年10月28日放映


 次々と飛び立ってゆく教徒移動用ヘリ。そしてマチとマシーンを乗せた最後のヘリも、今、悠然と飛び立ってゆく。
「くそ…おっ!」激しく歯噛みする三人。今すぐなんとかしなければ、『女王』を復活されてしまう!それは…即ち世界の破滅を意味する!!
 だが…ヘリへの攻撃はこの目の前のサムライが許さない。奴に背を見せたが最後、体ごと真っ二つにされてしまうだろう!
 何も出来ないままに、ただ握り締めた拳からしたたる熱い血が大地に染みを作る。今や物言わぬ人形となり、三つの十字架にはりつけられたネオだけが静かに見下ろす大コロシアム。
「フ…フフ…!」ヨロイが嬉しさの余りまた笑った。
「…永かったぞ、アロハマン…待っていたぞ、この時を!!…さあ、 『女王』の所へ行きたくば拙者を倒せ!!
 …運勢改変装置(エフェクター)は智美の生命維持で使えない。かといってみすみすカノンが当たる相手でもない…。つまり、正面切っての正攻法…神器を駆使した格闘戦によって倒すしかないのだ!だが、本当に勝てるのか!?切り札を持たないまま、剣神の如きこのバケモノに…!!
「くそ…ある意味ネオよりずっと手強いぜ…ッ!」
「………わ…私も……!」
 弱った体をおして援護に入ろうとする智美を、ブラックがさえぎる。
「ここは任せて…早く、千波湖へ!」 「で、でも…!」
 なおも残ろうとする智美に、グッと親指を立ててみせる三人。
「大丈夫、俺達も後から行く!」
「だからそれまで…少しでも時間を稼いでおいてくれ!」
「皆……!」三人の、抜けるように澄んだ優しい瞳を見て息を呑む智美。「…分かった。こちらは任せろ!」智美を乗せ、マシンを走らせるテラ。その背を見送ると、静かに息を整える三人。
「皆…覚悟はいいか?」との原の呼び掛けに小さく頷く。
「じらすなアロハマン…拙者先程の戦いで身体が疼いて仕方が…!?
 原の両脇で静かにブレスレットを外す二人。原はそれらを受け取ると、全てを自分の腕に装着した。 「よし…いくぜ!!
 覚悟を決めた表情(かお)の前で、おもむろに両腕を交差する!
「三重装(トリプル・クロス)!!」3つの輝きが一つに融合する!
 ほとばしる光の中から現れたその姿は…ッ!!
 …熱き怒りと冷たき哀しみをたたえて透き通る深紫のスーツ!!
 三人分の形状を合わせ、あたかも鋭い牙の如きフォルムのゴーグル!!
 余分なスーツはブーツとグラブに回ってより頑強さを増し!!
 …そして三つのブレスレットは融合して一つのベルトと化していた!!
「三位一体…アロハ・ディープパープルッ!!
「ムほお…それは先程カノンで見せた技だな!?いいぞっ…よくぞこの短期間に編み出した!さあ、其がいかほどのものか見せてみよッ!!
 突進してくるヨロイにいきなり全力をぶつける原!
「うおおおぉッ!!砕玉ブーメラン乱れ撃ちィィーーーッッ!!!!!!
!!!?」しかしヨロイは最小限の身のずらしで、全てのブーメランを躱しながら迫り来る!「連発も出来るのか…しかしいささか無芸なり!!
「…まだだァ!!」続けてヴン、と砕玉剣を伸ばす原。深紫化(ディープパープル)した今、その光刃も太く長く強化されている!
「食らえェ!!!!」 「……!!!!
 完全に打ち合いのモーションに入ったヨロイはその刹那、原のゴーグルに迫りくる無数のブーメランが映るのを見た!
 剣による真っ向勝負と見せ掛けた、戻ってきた砕玉ブーメランとの前後同時挟撃!「()ったァ!」と歓声を上げるブルーとブラック!
 タイミングは完璧だった!!
 が… 「……!!」 「バカな!!」慄然とする二人。
 ヨロイはとっさにその太刀で原の砕玉剣を絡め取り、引き込みながら大地にねじ伏せて、自らも深く身を沈めた!!!!
 剣を大地に差し込まれ、身体ごと固定されてしまった原には全てのブ
ーメランを躱すことは出来ない!とっさに後方へ跳んで剣を引き抜きながら直撃のダメージを逃がすが、一斉連打を浴びて数十bも吹き飛んだ原の体は、それでもかなりのダメージを負ってしまう!
「…今のは少しヒヤリとしたぞ…だが、まだまだだな」
 落胆を声に滲ませるヨロイ。
「…まだだ…まだまだ!」よろよろと立ち上がる原。
 その脳裏にバスターカノンを阻止したブラックの・・あの勇姿がよぎる。
 …ブラックがあそこまでやれたんだ…!俺だって!!
「うおおおおお!!
 全身全霊を込めて雄叫ぶ原!天を突き上げるその闘志がアロハスーツに輝きを呼び、やがて炎のように揺らめく深紫の燐光(オーラ)に包まれる!
「こッ、これは…ッ!!」 「アロハ力の…オーバードライブ!?
 ほとばしる力に呼応して砕玉剣が輝きを増す!!成長した光刃が枝分かれし、赤・青・黒三色の巨大な三股ブーメランとなった!!
「おあああ!砕!!!!破裏拳(ハリケーン)ーーーーーッッッ!!!!!!!!!!
 三枚翼で格段に旋回力の増したブーメランが錐揉み状に渦を巻きながらヨロイに襲いかかる!!「ムハア…ッ!!
 巨大な当たり判定をギリギリで躱しながら、その圧倒的なエネルギーに目を見張るヨロイ。戦いながらどんどん進化していく様に感嘆する。「…そうだ…これだ!これこそ拙者が求めていた力だ!!

 ヨロイ武士は一万二千年前、アトランティス北部の寒村に生まれた。
 幼い頃より剣術の師範であった祖父に師事し、剣で身を立てようと王都に上った。ガムシャラに武者修行と道場破りを繰り返し…
 気が付けば、もう敵は居なかった。それからはいくら鍛練を重ねても、もう自分が上達しているのか分からなくなった。回りが腑甲斐ないゆえに、彼の成長は止まってしまった。
 …ただ、技を保つだけの日々。苦痛だった。空しかった。完成してしまう事が…歩みを止めてしまう事が何よりも恐ろしかった。
 …そんな時期に、ザンベ・マチそしてグルザー軍団なる者が現れたのだ。奴らは強かった。だからヨロイは彼らに近付いた。世界がどうのという主義思想など何もなかった。
 …そして幾多の敵と斬り結び、屍の山を作り…
 そしてやはり、飽いてしまった。渇いてしまった。
 そんな絶望の日々に現れたのが…!

「…ヌオオオオオォ!!!!拙者はこれを待っていたのだ!!・・・・・アロハマン!!!!」 今や轟爆たる力と力のぶつかり合いが繰り広げられる!しかし…それでも圧倒的にヨロイが強い!
「もっとだ…!もっと進化しろ!!
 どがが、とヨロイに圧されまくり、逃げ込むように林の中へともつれ込む。オーバードライブの燐光と、時たま月明かりを照り返すヨロイの太刀…ふたつの光が剣戟の火花に彩られ、冥い林の中を駆け抜ける。それを必至に追い掛けるブルーとブラック。
「くそ…!くそ!くそぉっ!!
「…何も出来ないのか!?原があれほどまで死力を尽くして戦っているのに…ただ見ているだけだってのか!?何か…何かッ!」
 …その時、ふとテラの言葉を思い出すブラック。
『…オリハルコンは、意志の力で発動する…』
「…意志の力…意志の強さ…量…!そうか!!」叫ぶブラック。
「原!いったん深紫を(ディープパープル)解除するんだ!!
「な…どうする気だ!?
「…こういう…事だ!!」ブレスを受け取ってブラックも変身!そして
…彼もまたオーバードライブを!!
「…一人の意志より三人分の意志!!みんな、力を合わせて闘うんだ!」
「そうか…成程!!」三人それぞれ別個にオーバードライブモード!!
「うおおおおお!!!!」吠える三人!立ち上るオーラ!!
 原とブラックが剣と盾になって目まぐるしく立ち回り、ブルーがバズーカで援護撹乱する!!アロハマンは今、最強の敵を前にしてかつてないチームワークを発揮していた。ようやくヨロイと拮抗する!!
「…やるな!」ヨロイが笑った…!

 …サイドカーに揺られる智美の顔は、悲痛の色に染まっていた。
 …おそらく、9割方彼らは勝つ事が出来ないだろう。ヨロイの化物じみた強さは、過去の大戦でよく知っている。…それに…
 ……三人のあの目は、『死』を覚悟した目だった…!
 目を閉じ、両の手をぎゅっと握り締める智美。
 …でも、それは私達も同じ事…!
 ザンベとマチを指輪に封印するには、代償として術者の生命力が必要だ。…それこそが、先代レッドとブルーが最後に命を落とした理由であった。既に体の石化が始まり、生命力の弱まった当時の彼らでは二人分の命が必要だったのだ。
 …だが、今の私ならまだ…!
「…私が…やります!」 「………」じっと前を見つめたまま運転を続けるテラ。…しかし、その言葉の意味は判っていた。
「…どうせ助かる見込みが薄いなら…せめて、有効に使って下さい!」
「…いや…今の君の生命力では、二人同時の封印はおそらく無理だ」と首を振るテラ。「ここで冒険をする訳にはいかない…だから、私がやる。君は、この先ブラックと共に生きろ」 
!?わ、私は…あなたの妻です!」 
「…戸籍上は、な。しかし結婚とはしょせん一種の契約…。破棄もありうる代物だ。魂までは縛れんよ」 「…そんな言い方…!」 
「智美…君の魂は本当に私と生きる事を欲しているのか!?君が本当に望むのは、ブラッ…」 「やめて!私…ワタシは…!!
「…君の人格が二つに裂かれたのも、記憶が扉に縛られたのも全てはブラックへの想いゆえだろう!?そうでなければ…!」
「お願い!!やめて!!!!
 ザシャーッ、と横滑りに止まるバイク。
 …そこは既に、千波湖を見下ろせる丘の上だった。
「……」二人はしばし、無言であった。
「…悪かった…。とにかく今は、指輪を奪回して女王復活を阻止する!!」 アクセルを握ろうとするテラの手を智美がつかむ。
「…まって」 「?」振り返るテラの目が大きく見開かれた。
「!…君は…ホワイトか!?
(…ホワイト…どうして!?
 ここしばらく姿を潜めていたホワイトにいきなり身体の主導権を取られ、智美も心の中で驚く。
「…事態の展開が急だったとはいえ、あまりに情況判断が雑すぎる…あなたらしくないわね、テラ。…それとも、・・先輩の男闘呼回路の事がそんなにショックだった?」 !!なっ…何が言いたい…!?
「…闘技場(コロシアム)にザンベが居なかったわ」
「…!?いや…確かにそうだが、別の場所にでもいるのかと…」
 …確かに心配事が多すぎて、そこまで気が回っていなかった。だが…
「で…君はその事をどう見ているんだ!?
「…彼等は先程の儀式で、女王の探知しか行なわなかった。という事は、大王の所在は既に明らかか、又は探すつもりがない、という事。…もし前者なら、何故その復活を後回しにして女王の探知を優先させるのか?加えて先程のザンベの不在、マチの演説に全くザンベや大王に関する言及がなかった事などを考えあわせると…」
 二人の思考が追い付くのを一瞬待って続ける。
「…ザンベの失脚、そしておそらくは幽閉!」
「何…ッ!?」目を剥くテラ。(…まさか!)と智美も驚愕する。
「…そしてザンベの実力を考えれば、かなり強力な手段で幽閉されたと考えるのが妥当でしょうね」 「だ、だが…ということは……!!
「そう…ザンベとマチの同時封印は不可能!こんな特攻じみた襲撃に見合う戦果は得られない、という事よ。テラ…ここはいったん撤退なさい!戦力分散の愚は古来全ての兵法が戒めて…」
「…だめよ!!」 !!!?
 ホワイトの意識をさえぎって、智美が身体を奪い返した。
「ブラック達は今も必死にヨロイと戦ってるのよ!?なのに…自分達が危ないからって逃げるの!?約束したのよ!?少しでも時間を稼ぐって…!!「…まさか本気で彼らがヨロイを倒せるとでも…?万に一つもそれはないわ。今すぐ戻って救出し、戦力を建て直すことを提案するわ」
「…貴女は何も分かってない…!ブラック達は必ず勝つ!!勝って絶対ここにくるわ!!だって…ネオにだって勝てたのよ!?
「ネオには勝てたわけじゃない。あれは…彼らの自滅よ」
「違う!!!!あれはブラック達の心の、意志の、決意の勝利よ!それがネオの心を動かしたのよ!!…どうしてそれが分からないの!?…あなたは以前『ザンベ達を倒すのが使命』と言っていたけど…あなたにはそんな意志も、決意も、覚悟もない!!ただ『計算』と『確率』があるだけ!!…それで一体どうやってマチを倒せるというの!?…アロハマンより強大なマチを、確率を超えた奇跡も起こさずに!!
「…智…美……」
 智美とホワイトの人格が目まぐるしく交代する様を見て言葉を失うテラ。…こんな状態を見るのは初めてだ。両者の自我境界が、極めて希薄で不安定になっている。ローズの毒の影響…かもしれない。いずれにせよ智美の心と身体は、最早予断を許さぬ所まで来ているのだ。
「つまり、あなたは奇跡をあてにしてるのね?結局神風…神頼み」
「違う!違う!そうじゃない!!…頼っていたら…望んでいたら奇跡は起きない!奇跡も!神も!全部忘れて意志で!決意で!覚悟で!…全てを賭けて戦った時…その時にだけ、奇跡はつかめる!!それが出来るからこそ…」
「…彼等は…『常夏戦隊アロハマン』なんだ!」
「…テラ!?」ドルン、とテラがアクセルを全開にした。 
「すまない、ホワイト…。私は君に100%賛成だ。が、それを超えたところで…10%目で君に賛成することができない。・・そこは…論理では到達できないところなんだ!」 「……」
 苦痛に顔を歪めながらも自分の偽らざる気持ちを認めるテラ。
「…私は今でも心を信じない。そんな不安定極まりない代物に世界を委ねる訳には行かないんだ。…それでも…」
 テラがふと、穏やかなやさしい目をした。
 …それは・・・あの時の三人と…同じ目だった。
「論理を超えた所で戦わなければならない時があるのを私は知っている。
…ただ、それだけを味わい続けた人生だったような気がするんだ」
「…言ってる事が矛盾だらけだわ」それっきり、ホワイトは沈黙した。
(…『矛盾のない、完全な世界』…それをこそ奇跡というのじゃないだろうか…?)
 束の間の瞑目を切り上げると、眼下の情況を素早く確認するテラ。
「作戦目標…指輪とミミの奪還、及び…女王復活の阻止!」
 頷く・・智美
「…では、行くぞ!!
 儀式の真っ只中に突っ込む二人!!

「ヌハハハ…楽しい!楽しいなあ!」
 ヨロイの体力は一向に衰えを見せなかった。今や彼らは林を抜けて、桜並木が両の土手に立ち並ぶ、桜川脇に転がり出ていた。ヨロイが笑う。
「どうした!?もっと、もっと拙者を楽しませてくれ!!
「バカな…俺達は三人なんだぞ!?
「…それでも…ヨロイの方が強いってのか…!?
 二人に向かって原が弾き飛ばされる!半ば避け切れずに受けとめ、地面にもんどり打つ三人。と…何やら砕玉剣の反応が強くなったような気がする。それを見た三人の動きが一瞬止まった。…そして互いに頷くと、ブルーはバズーカを捨て、ブラックは開放拳を解いた。
「…何!?」武装を捨てた二人の行為に、ヨロイが目を丸くする。
 …そして三人は各自のオーバードライブを最大限に高めると、それらを全て一本の砕玉剣に注ぎ込んだ!
「一人より三人…そして三点よりも一点集中!!
 その瞬間、砕玉剣の威力が文字通り爆発的に高まった!!目も眩むほどの白光がほとばしり、もはや剣の形すら保てずにとめどなくはぜる。周囲数十aの空気がプラズマ化して飛びかい、全てを焼き尽くしてしまいそうな炎の如きはしかし、その形相に反して周囲の桜をやさしく、力強く活性化させ、一斉に時期外れの花を咲かせ始めた。
 全景を覆わんばかりに咲き乱れるまばゆい花の嵐の中、次第にその気に押し戻されてゆくヨロイ。焼かれた鎧が煙を上げ始める。
「ふ…ふふふ…ふはははは!」
 跳んで、一旦後退するヨロイ。身震いをして呵呵、と笑った!
「いいぞ…いいぞお前達!それでこそ倒しがいがあるというものだ!!
 ばっ、と己れの刀を天にかざすヨロイ。
「我が名はヨロイ!!アトランティス大天一刀流…ヨロイ武士だッ!!
「…アロハレッド!」「アロハブルー!」「アロハ…ブラック!」
原青黒『我ら常夏戦隊!アロハマン!!
「ようし、アロハマン!我が全身全霊の最後の一撃、見事受けてみよッ!!」 大地を割って突進してくるヨロイの一刀!!
 返り討たんとする砕玉剣トライアタック!!
 ぶつかり合う凄まじい剣戟!!
 うずまく剣風に吹き上げられて、無数の花弁が舞い踊る…!
 …満開の桜花の下に並ぶ両雄。まるで一幅の絵画の如き一刻が去った後には…
 膝を折って倒れこむ、アロハマン達の姿があった。もはや全ての力を出し尽くし、立っている余力すら残っていない。
 だが…ヨロイはまだ屹立していた!
「…こ…これまでか……」力尽き、意識が薄れて倒れる原。が…
 …その眼前に、空から振り落ちてきた刃が鋭い音を立てて大地に突きささった! 「!?
 振り向くと…
 仁王立ちのまま微動だにせぬサムライの刀は、その根元から見事なまでに折れていた。ゆっくりとこちらへ振り向くヨロイ。
「……!!」知らず、息を呑むアロハマン。だが…
 ちん…と涼やかな音を響かせ、ヨロイは折れた剣身を鞘に収めた。
「…雪辱には未だ…修業が足らぬか」
 くる、と無造作に背中を見せ、ヨロイはその場を後にした。
「…見事だ…いずれ再びあいまみえようぞ!」
 その背が満足そうに笑っていたと思うのは、気のせいだろうか。
 …こうしてヨロイは新たな刀を求め、一人、彼方へ旅立ったのだった。
「……………ッ!!
 今まで呼吸を忘れていたように大きな息を吐き、どう、と地面に崩れ落ちるアロハマン。安堵に意識が遠のきそうになる。それでも…
「いや…まだ…まだだッ!」
 精も根も尽き果てた筈の原は、ブルーは、ブラックは…それでもなおその身に鞭打ち、渾身の力で立ち上がる。
「智美が…待ってる…!」「…そうだ…あの二人の所へ…!!
「…全てが集まる、あの場所へ…っ!!!!

「そっ…そんな…ミミちゃん!?
 丘を下った所で予想外の事にバイクを急停止するテラ。レリーフ状にはりつけになったミミが、今しもヘリに釣り上げられ、千波湖中央へ運ばれようとしているのだ!
「もう人体は必要ないだろうに…何故摘出していないんだ!?
 スカウターの分析画像を見て、目を剥くテラ。
 指輪の反応がミミの・・全身から発しているではないか!これは…
「生体同化!!まさか…そんな事が!?
 と、二人をとり囲むSM戦闘員。その後からマシーンが歩み寄る。
「フハハ…ゲームオーバーだ、テラ」
 だがそこには一人笑う智美がいた。「いいえ…かえって好都合だわ」
「何?…テラは!?
 バイクをターンして、女王に砲口を向ける智美。
「ミミちゃんさえ奪回すれば、女王の復活はない…一石二鳥よ!」
 …砲口にはなんと、既にテラが装填されていた!!
「照準よし…シュート!!」女王めがけて高速飛翔するテラ!!
 …だが、その横には超越的なスピードで追い付くマシーンがいた!
「…愚か者め…次は本気で潰すと言った!!!!
 空中でテラを叩き落とす! 「ぐあああああっ!!
 地面に叩きつけられ、クレーターを作るテラ! 「テラーッ!!
「まだだ…まだこれからだ!いくぞ、M−666!」
 ブン、と姿が掻き消えるテラ。V−MAX全開で超高速移動したのだ。
「…望むところだ!」ブウン、とマシーンの姿も消える!
 他の誰も入り込めない高速の戦いを繰り広げながら会話する二人。
「…M−666…『大王』はどこだ!?ザンベは…本当に幽閉されたのか!?一体、何があった!!
「フン…私の関知する所ではないな。バカどもが勝手にやった事だ。ククク…全く、『心』を持つ連中と来たらなあ!!
「………!!!?
「…そうだ、テラ…貴様はかつて『人の上に立つ者はを持つな』と教えてくれたな。ククク…確かにそれは低いレベルでは全く正しい。…だがな…私が導き出した答えは全く逆だ!心など要らぬのは貴様らの方だ!支配される者共に心など要らぬ!心は…・・・・・・・たった一つだけ・・・・・在ればいい!!
!?…お前、何を…?」
 そうこうしているうちに、ミミが今しも女王にセットされようとしている!
「…ミ…ミミちゃん!」
 変身する智美!Hフィールドで戦闘員を弾き飛ばして走り出すが、突如吹き上がってくる・・・・ホワイトの理性的判断と凄まじい精神齟齬を引き起こし、変身が解けてしたたかに地を転げる。
「ミ…ミミちゃん……ッ!」
 またも吐血して倒れこみ、目に悔し涙にじませる智美。
 そして…湖面中央に顔を覗かせる工事用ハッチに吸い込まれるミミ。
 姿が見えなくなって十数秒後…カッ、という光と共に水中から強大なSフィールドが発生した!
 その凄まじき反発力はモーゼの十戒の如く千波湖の水を割り、悠然と固定から姿を表した『女王』のその巨大さ、威圧感に思わずどよめく信者達。
 そして…早くも!『女王』の脈々たるSの波動に影響を受けて、水戸中の・・・・・素質ある者がMに開発され始めた!!
 マシーンに圧倒され、オーバーヒートを起こしてよろめきながら、その光景に目を見張るテラ。動力源(ミミ)をセットしただけで、この威力…!!
「…これでマチに乗り込まれたら、世界の終わりだ…ッ!!
「…違うな、新たな世界が始まるのだよ…!」
 ガッ、とテラの首を締め上げ、持ち上げるマシーン。
「なあ、テラ…昔の(よしみ)だ。最後の頼み、訊いてはくれんか?」 機械の双眸がテラを不敵に覗き込む。
「主幹装置を…私に渡してほしいのだ」
「…フ…いくら旧友の頼みでも、そればかりは聞けないな」
「そうか…残念だよ」暫し、瞑目するマシーン。
 おもむろにぶしゃっ、っとテラの胴体に手刀を突き刺す!
「………………ッッッ!!!!!!!?
「いかんなあ、テラ…こんなに分かりやすい場所に隠しては…!!
 そのままぶちぶちぶち…と力任せに引き千切る。
「…貴様が装置を『この世で一番安全な場所』に隠す事など、この私に分からぬとでも思ったかァ!!
「がはあああああッッ!!!!」体内から奪われてしまう主幹装置!
「テラーッッ!!!!
「新しい支配者が誕生する瞬間を見ながら逝けいッ!」
「…そこまでだっ!」
 その時、たった今到着したアロハ三人が丘の上に姿を現わした!
「…ホウ…まさかヨロイを倒したのか…!?
 軽い驚愕を覚えるも、すぐにそれは冷徹な笑みに変わる。
「だが愚かな…既に貴様らの身体はボロボロではないか」
「うるさい!これくらいの…!?
 ハッとする三人。身体を真っ二つにされたテラ…そして倒れたまま動けずにいる智美に気付いて驚愕する。
「カ…カノンは撃つな…!!私も…それで…ッ」
 …カノンも…そしてテラの加速装置(V−MAX)ですらもマシーンのスピードにはかなわないというのか!?それに…そもそも精神系のスマッシャーは機械(マシーン)には効かないのだ!!
「し、しかし…!」
 …眼前には、今しも女王に乗り込もうとしているマチが…!!
「…一か八か…やるしかない!今やるしかないんだ!!
「面白い!この機会に貴様たちを皆殺しにしてやるっ!!
 テラを大地に投げ捨て、突進してくるマシーン!
「う、うわあああああ!」
 恐怖に叫ぶブルー。ブレスを原に渡した今、彼は全くの生身なのだ!
 ブラックが開放拳で防御しようとするが、咄嗟の事でベルトがなかなか外れない…ッ!
「かまわん!撃てェーーーーッ!!!!
 砲内で砕玉剣を装着する原!カノンの破壊力に上乗せして、一か八かの勝負をかける!!
「ああああーーっ!!」寸前に迫るマシーンの影に、ほとんど本能的にスイッチを押してしまうブルー!
「ダ…ダメよ!砕玉剣は…!!
 発射!!超至近距離の激突!!目も眩む爆光!!地をも揺るがす大轟音!!
 …爆煙が晴れ、地面がえぐられたそこには…
 砕玉剣に左の肩を貫かれたマシーン!そして…
 …その手刀により、胴体を串刺しにされた………原……ッ!!!!
黒青「あ…………!!!?
「………」
 掲げた原の体を見るともなく、そのまま無造作に投げ捨てるマシーン。胸から血を噴く原の身体は、糸の切れた操り人形のように力なく地面を転がる。…マシーンの肩には、ほとんど何のダメージも見られない。
 …ジャリ、とマシーンがその歩を進める。
「う…うわ…」しらず、ブルーが同じだけ後退りをする。ブラックがその場に留まったのは…身体が動かないからにすぎなかった。
 …最早、目前にまで迫るマシーン…!
「わああ!ああああぁぁーーーっっ!!!!
 …ピクリとも動かぬ原、半身を千切られたテラ息も絶え絶えの智美…
 …そして、今しも女王に乗り込まんとするマチ…!!
「…もうだめだ……ッ!!」遂にブラックが目を閉じたその瞬間…

 …幾万もの信者の群れを割って、一人の竜巻をまとった男が地平線から歩いてくる。
「…!?」 「な…」 「そ…そんなバカな!」 「あ…あ!!
 …それは……ザンベだ!囚われの魔王ザンベが、女王の発する巨大なS波に呼応して復活したのだ!予想だにせぬ出来事に、誰も身動きをとる事が出来ない。
「…ぉお…おおおォォォーーーーーーーーーッッ!!!!
 この世のものとは思えぬ咆哮をするザンベ!…女王の姿に魅せられて
…放置プレイがゆきすぎて!…今ッ!!ザンベのM性はまさに極限にまで高まっていた!!互いに共鳴し合って女王のSフィールドも膨れ上がる!!
…物凄いパワーだ!!!!
「…お前たち、よくも…よくも私を裏切ったな!?許さん…ッ!!私の本当の力を見せてやる!!!!
 突如大地が揺れ、地割れが起こる!「!?」「こ、これは…ッ!?
 …ああ、何ということだろう…!もはや周囲の岩盤が彼をシバかずにはおれなくなったのである!!先程から彼が身に纏う竜巻もまた、空気のそれだったのだ!!幸い今、この場に集まっている信者は皆Mなので持ちこたえていたが、今やありとあらゆる物がSとなって彼をシバきに舞い上がり、轟々たる上昇気流が遥か上空に雷雲さえも産み出していた!!
「…フィールドの展開だけでこんなにも凄まじい力が…!!!?
 霞む意識の中でなおも驚愕を禁じ得ないテラ。
 …今や土砂が、岩塊がいたる所から吹き上がる!!
「も…もうダメだァ…ッ!!
 ブラックのそれはもはや、悲鳴以外の何物でもなかった。
「逃げろ…っ!」と息も絶え絶えに叫ぶテラ。
「そして…とにかく生き残れ!今はもうそれしかない…!!
 地獄の狂騒曲を奏でながら、遂に女王の足元へと至るザンベ!!
「奴め…一体何をする気なんだ!!!?
 女王を覆うSフィールドが、みるまにきゅっ…と持ち上げた足先に収束した!!そして…
 ・・・・・・・・・・・・ザンベがその足に踏まれた!!!!!!
「あ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っっっ!!!!!!
 一同、ボーーーーゼン。
「いいっ!いいよお!!もっと見てェーーーーーーっっっっっ!!!!
 …そして、その場に居る誰もが理解した。
『…もう、誰にも彼を止められない…!!
 …水戸中に朗々と響き渡るザンベの悶え声。
 耳を塞いでも聞こえてくるピンク色の衝撃波は、七日七晩の間水戸の空を染め続けたという…。


 
前へ  ◇  次へ
 
TOP閲覧順路第3部目次 > 各話